【あらすじ】戦後の混乱期。花形と親友の松田は定職もなく、下北沢の場末のクラブを溜まり場に浮き草のような日々を送っていた。たまの稼ぎは、米軍基地PXの闇物資の横流し。アブク銭が入ると夜の街を豪遊した。美佐子と出逢ったのは、そんな時だった。そして、花形は美佐子と結婚する。当時の渋谷の街は、古くからの暴力団・大野組のシマであったが、最近大学出のインテリヤクザ安藤昇が率いる新興の安藤組がジワジワと勢力を伸ばしつつあった。美佐子に現を抜かす花形を余所に、かねてから安藤に関心を持っていた松田は、直談判するに及んで、安藤組が経営する渋谷興業の組員となった。一人残された花形は後を追うように、安藤組へと入る。ヤクザの世界はまだまだ力の時代であり、花形と松田の行くところは敵なしだった。美佐子は妊娠し、生まれてくる子供のためにヤクザの足を洗うように頼むのだが、今の花形にとっては、闘志を剥き出しにしてぶつかり合う修羅場は、この上ない生き甲斐の場所であった。そして、安藤組の花形敬の名は、たちまちこの世界で勇名を馳せた。だが、美佐子の不安が遂に現実のものとなった。花形が傷害致死の罪で宇都宮刑務所に送られることになる。美佐子は花形と別れる決心をする。愛してはいたが、喧嘩に狂喜暴走する花形の性格を変えられるはずもなかったからだ。花形が出所してくる。一方、松田はこの数年間に安藤組の大幹部に出世していた。そして、ヤクザ社会も様相を異にしていた。力よりも金の世の中になっていた。敵対していた大野組とも今では協定を結び、平和裡に商売をやっていた。もはや、花形の喧嘩相手はいなかった。花形にしてみれば、喧嘩あってのヤクザ稼業であった。それに花形には、金儲けの才覚は全く欠けていた。暴走する花形を、松田は事ある毎になだめた。花形は毎晩酔っぱらっては、松田とその情婦の里美のいる家に押しかけていた。花形は頼れるモノを求めていた。この心の疵の痛みを分かって貰えるのは、少年時代からの無二の親友である松田しかいなかった。だが、二人に思わぬ事件が起こる。里美にけしかけられた松田の子分・水野が、花形の命を狙ったのだ…!?
【解説】邦画男がしみる。花形敬、かつてシブヤに伝説の都会派ヤクザがいた。花形敬・・・、その名は今でも、無宿渡世の中で伝説の人として生きている。暴力の世界に身を置きながら、戦いの場においては、生涯一度も銃も刃物も持たず、常に素手で相手を完膚無きまで叩きのめし、そのステゴロの強さと凄さは、ヤクザ社会でも死神のように恐れられた。終戦直後の飢えの時代から、日本経済が高度成長を続ける昭和30年代にかけての変動期を徒花のように咲き狂った若者たちの愛、友情、裏切り、闘いの嵐のごとき生き様を描く。原作は、本田靖春のベストセラー『疵・花形敬とその時代』(文春文庫)。



