万歴37年、蠹県。城外にある畑の中で見つかった死体の、あまりに凄惨な様子に、捕吏の曲三更も顔色を失った。それ以上に曲三更を驚愕させたのは、長い棒で体を貫かれ、案山子のように突っ立っていた死体が、彼の師匠である捕頭・冷無疾だったという事実である。しかも奇妙なことに、その棒には“吾が道 一を以て之を貫く”と「論語」の一節が書かれていたのだった。「下手人を捕らえ、父の仇を討って」。師の娘・冷桂児の言葉に背中を押され、曲三更は捜査に邁進するが…。
捕頭を兼任することとなった刑吏組の頭領・易有靠は、“五侯府”と名乗って町を牛耳っている荒くれ者集団の親分たちに接触を図る。彼らの“目付役”でもあった冷無疾の後釜に座ろうという魂胆である。一方、曲三更も、五侯府の親分に接近するための布石を打っていた。裏の事情に詳しい者から情報を得ることが捜査の鉄則。冷無疾の事件について尋ねるには、彼らはうってつけの相手なのだ。だが、捜査を進めるうちに、曲三更は師匠の知られざる一面を垣間見ることに…。
何度も後頭部を殴られ、口の中には頭のないひよこの死骸。凶器と思しき銅尺には、またしても「論語」の一節が。頭だけを地中に埋められた格好で見つかった第二の被害者・王崇理の死も、狂気によって飾り立てられていた。2つの事件の下手人は、同一人物で間違いないだろう。事件について考えを巡らせ、話し合う曲三更たち。「叔父上は人の道に背くことをしたのやも」。そうつぶやいた鳳可追は、被害者の行いについて自分に調べさせてほしいと申し出るのだった…。
第三の死体の出現で、一連の事件は20年前に起きた火事に関係があるという公算が強まった。万歴17年、後に出火元となる陸邸には、当主の陸遠暴と数名の使用人だけが住んでいた。童僕の陸直は優しく聡明で陸遠暴からも気に入られており、いずれ養子にするのではと噂が立つほど。他の使用人も彼を“若様”と呼ぶようになっていた。しかし、賢く目端が利くがゆえに、陸直は主人の腹黒さや、陸遠暴のお抱え妓女である林四娘の秘密などを次々と知ることに…。
捕吏組の新たな長・夏頭領は一連の事件が未だ解決されないことを重く見て、捕吏たちに罰を与え、“一月で事件を解決せよ”と命じた。夏頭領に目をつけられた曲三更は、処方箋を手に神医と称される程逸致に揺さぶりをかける。鳳可追に協力させて偽造したその処方箋は、陸遠暴と陳旺に対するもの。20年前の火事と“論語殺人”がどう関わっているのかを探ろうという狙いだ。一方、夏頭領は過去の未解決事件の再捜査が、一連の連続殺人の解明につながると捕吏たちに号令を発し…。
「冷頭領と王先生をつなぐ唯一の手がかりが化け猿なのです」――夏頭領はそう宣言し、捜査の矛先は、最近城下を騒がせている化け猿へ向かうことに。やがて魏知県と夏頭領は、奇怪な大猿の正体が、猿に扮した白蓮教護法道派の盗賊ではないかという情報を得るのだった。そんななか、程逸致が曲三更にゆすられたと役所に訴え出た。魏知県らによる取り調べに対し、金を受け取ったことを認める曲三更。処罰は免れないかと思われたが、話は奇妙な方向に展開し…。
蠹県を恐怖に陥れた化け猿。連続殺人とつながりがあるかに見えた怪人も、実は曲三更がある目的で仕組んだ罠の駒にしか過ぎなかった。しかし、化け猿の持っていた覚書が、事件の手がかりに。その先に浮かんできたのは、笠をかぶった髭の男の存在だった。そんななか、新たな犠牲者が。薬王廟の前の通りに置かれた大鍋の中で物言わぬ屍となって発見されたのは、神医・程逸致であった。今度は論語の一節が書かれた紙片だけではなく、薬の処方箋が死体と共に残されており…。
一連の殺人事件と化け猿は無関係だったと判明し、激怒した臬台は非情な処分を下す。夏頭領を捕吏に降格させ、再び蠹県に戻したのだ。彼の仕打ちを憎んでいた捕吏たちは、今にも叩き殺してしまいそうな勢いで、“同僚”となった夏を取り囲む。そこで曲三更は「殺さずとも憂さ晴らしはできる」と、ある提案をするのだった。一方、程逸致の死によって捜査が停滞しているのを見かねた冷桂児は、20年前の火事の生存者につながる情報を集めるため、一計を案じる…。
変装とも言えないような、お粗末な男装姿で現れた冷桂児をたしなめた林四娘。彼女は母のような、あるいは姉のような親しみと温かさを込め、桂児に対して冷無疾との馴れ初めを語った。「林女将は父さんに会えたかな」――冷桂児は在りし日の林四娘の姿を思い浮かべつつ、彼女の墓前でそっとつぶやくのだった。当然のように、林四娘の亡骸にも論語の一節が添えられていた。しかし、曲三更はそこに、これまでとは異なる違和感を覚える。そして、次なる被害者が…。
陸遠暴が下したという信じられない命令と、血塗られた恐るべき過去――陸忠の“言葉”は、何重にも陸直を驚愕させた。恩人である陸忠のため、陸直はおとなしく命を捨てる覚悟を決める。しかし陸忠は彼を殺さなかったばかりか、陸遠暴殺害計画に加わって策を練るよう促すのだった。密かに陸邸へと戻った陸直は、計画実行に向けて動き出す。弱みを握った人間たちを脅し、手駒としていく陸直。その企みは着実に、成功へ向けて前進しつつあったかに思われたが…。
“南門外の廃寺の林にて、再び凶行の恐れあり”。告発状を無視するわけにもいかず、曲三更たちは張り込むことに。暗がりのなか、身を隠した幾人もの捕吏の視線の先には、たき火をする易者・岳半仙の姿があった。そこへ現れたのは張継祖――薛挙人の執事である。剣を抜いて岳半仙を羽交い絞めにした張継祖は捕吏たちに捕まるが、彼が連続殺人の下手人とも思えず、告発状の主の真の狙いは分からぬままだった。そんななか、薛挙人が役所へ。彼は執事の保釈を要求するが…。
陸邸には怪しげな“離れ”があり、その庭の枯れ井戸には隠し部屋が――。陸不憂は自分の発見に興奮しながら、「今夜は、うちに泊まっていけよ」と小宝子を誘った。陸直と3人で、夜中に隠し部屋を探りに行こうという魂胆だ。その誘いに乗り、小宝子は陸邸へ留まることに。夕食のあと、いつの間にか眠ってしまった小宝子が目を覚ますと、辺りは変に明るく、煙が漂っている。万暦17年9月7日深夜、屋敷を包む紅蓮の炎の中を、陸不憂と小宝子は逃げ惑うしかなかった…。
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