背中に悔いを背負った男、安田松太郎。彼は傷ついた天使に出会い、旅に出る。しかし、社会はそれを誘拐と呼んだ。――主人公の安田松太郎は、高校の校長を定年退職した厳格な教育者。しかし、幸せな家庭を築けず、アルコール依存症だった妻を亡くし、一人娘から憎しみをかっている。人生に悔恨を背負ったそんな初老の男が、一人の天使に出会う。松太郎が引越したアパートの隣室に母親と二人で暮らしている5歳の少女。ボール紙で作った擦り切れた羽根をいつも背中につけた地上の天使は、母親に虐待され、誰にも心を開けなくなっていた。不幸な少女の名は、幸。松太郎はある日、幸を救い出し、一緒に旅に出る。行く先は、松太郎の遠い記憶のなかにある心のユートピア。青い空に白い雲がぽっかりと浮かび、大きな鳥が悠然と空を舞う、ある山の頂だった。しかし、幸の母親は娘が誘拐されたと、警察に届け出る。捜査の網の目は次第に彼らを追い詰めていく・・・。
情緒溢れる町並みが、どこか時代から取り残された感のある愛知県瀬戸市。人のウワサがあっという間に広がりそうな片田舎で、43歳の警察官・友川と、15歳の中学生・陽子が恋に落ちた。警官でありながら拳銃をぶっ放して遊び、淋しい主婦とヨロシクやってしまう破天荒なおっさんだったが、知的障害を持つ陽子の兄・助政や、一人暮らしの老婆トヨといった、社会から疎外された人々に優しい目を向ける。そんなおっさんの自由だが一本筋の通った生き方が、胸に小さな傷を抱えた少女の心に安らぎを与え、孤独という心の穴を埋めていく。だが、ある事件をきっかけに二人の関係が周囲に知られてしまうことに。現実を突きつきつけられたおっさんと少女の愛の形を美しい映像でアヴァンギャルドに綴った奥田流抒情詩。
絶海の孤島、流刑の地、八丈島。不可能といわれた島抜けに、愛を賭けて男は挑む・・・。史実を基に描く壮大な歴史ロマン――「鳥も通わぬ」と謳われた絶海の流刑島・八丈島。かつてこの島に流人として島流しにされ、いつか再び江戸に変える日を夢見て必死に生きた女たちがいた。そして、愛する女のために、絶対不可能とされる“島抜け”に命を賭けて挑んだ男がいた。本作は流刑島史上唯一、“島抜け”に成功した実在の人物、佐原の喜三郎の物語を基に描かれた、壮大な歴史ロマンである。