山あいの小さな村。唯一の医師として人々から慕われていたひとりの医師が失踪した。警察がやってきて捜査が始まるが、驚いたことに村人は、自分たちが唯一の医者として慕ってきたその男について、はっきりした素性を何一つ知らなかった。やがて経歴はおろか出身地さえ曖昧なその医師、伊野の不可解な行動が浮かびあがってくる――。
東京で写真家として成功した猛は母の一周忌で久しぶりに帰郷し、実家に残り父親と暮らしている兄の稔、幼なじみの智恵子との3人で近くの渓谷に足をのばすことにする。懐かしい場所にはしゃぐ稔。稔のいない所で、猛と一緒に東京へ行くと言い出す智恵子。だが渓谷にかかった吊り橋から流れの激しい渓流へ、智恵子が落下してしまう。その時そばにいたのは、稔ひとりだった。事故だったのか、事件なのか。裁判が始められるが、次第にこれまでとは違う一面を見せるようになる兄を前にして猛の心はゆれていく。やがて猛が選択した行為は、誰もが思いもよらないことだった──。
東京の片隅で小料理店を営んでいた夫婦は、火事ですべてを失ってしまう。夢を諦めきれないふたりは金が必要。再出発のため、彼らが始めたのは妻が計画し、夫が女を騙す結婚詐欺!しかし嘘の繰り返しはやがて、女たちとの間に、夫婦の間に、さざ波を立て始める…
慎ましくも平穏な日々を送っていた明智一家。幼い頃から正義感の強いしっかり者の長女、優しい母に、働き盛りの父、呆けてはいるが明るく楽しい祖父。そんなどこにでもいる平凡な家族のもとに、ある日突然、勘当され行方不明になっていた放蕩息子が10年ぶりに舞い戻ってきた。そして時を同じくして、明智家の平穏さの裏に隠されていた嘘と欺瞞が、小さな亀裂から次々と噴出しはじめ・・・。ついには、彼らを支えていた“正”と“悪”の価値観までもが、ものの見事に逆転していく。