すべてにおいて屈折し、狭量で、尊大な美術教師が取るに足らぬと思っていた土地に、何を見つけ出すのか――トルコ東部、雪深いインジェス村の学校で美術を教えるサメット。教師というだけで、村人たちから尊敬され、お気に入りの女生徒セヴィムにも慕われている。しかし、ある日、、同居している同僚のケナンと共に、セヴィムらに“不適切な接触”を告発される。同じ頃、美しい義足の英語教師ヌライと知り合う。夏、念願叶って転任が決まり、この田舎村から去ろうとするとき、雪で覆われ続け、春の陽を浴びることなく突然に強い陽を浴び、黄色く枯れた草を踏みしめるサメットは、その枯草になにを見つけ出すのだろうか......。プライド高く、ひとりよがりで、屁理屈を並べ、すぐにキレて、周囲を見下す、“まったく愛せない”のに“他人事と思えない”主人公サメット。人と自分を比べ、他者をやりこめようとするサメットの姿は、現代社会のどこにでも見つけることができる。主人公サメットとディズダル演じるヌライが繰り広げる人生論のやり取りは、12分を超える圧巻のシーン。「世界のために何ができる?」の問いに、「正義は絵空事」とうそぶくサメット。しかし、そのあとの展開に誰もが驚くだろう。予測不可能さ、アンビバレントさ......人の心の不可思議がそのまま提示されるとき、映画と現実の境界は失われ、新たな映画体験を味わうのだ。
世界遺産のトルコ・カッパドキアに佇むホテル。親から膨大な資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らす元舞台俳優のアイドゥン。しかし、若く美しい妻ニハルとの関係はうまくいかず、一緒に住む妹ネジラともぎくしゃくしている。さらに家を貸していた一家からは、思わぬ恨みを買ってしまう。やがて季節は冬になり、閉ざされた彼らの心は凍てつき、ささくれだっていく。窓の外の風景が枯れていく中、鬱屈した気持ちを抑えきれない彼らの、終わりない会話が始まる。善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは?他人を愛することはできるのか―。互いの気持ちは交わらぬまま、やがてアイドゥンは「別れたい」というニハルを残し、一人でイスタンブールへ旅立つ決意をする。やがて雪は大地を真っ白に覆っていく。彼らに、新しい人生の始まりを告げるように。
イスタンブールのジムで掃除婦として働く移民のサヤラ。ジムのオーナー、バリスに密かに思いを寄せていたが、姉ヨンジャとバリスが不倫関係にあった。ある日、ヨンジャはバリスに呼び出され、バリスの仲間から激しい暴行を受け殺されてしまう。だが、政治的な権力を持つバリスの父親の手回しで、ヨンジャの死は自殺にみせかけ処理されてしまう。ヨンジャが殺されたと確信するサヤラ。サヤラは幼い頃よりソ連の軍隊格闘術サンボのチャンピオンで裏社会で暗躍した父から、格闘術を叩き込まれ、殺人マシンとして育てられていた。人を殺める技を封印していたサヤラだったが、愛する姉の屈辱を晴らすため、その能力を覚醒させる―!
武装テロ集団との紛争により警戒が高まるトルコ軍特殊部隊。ある日、民間人になりすましたムラット大尉から「テロ集団が村を襲撃し、民間人を人質にとっている」との情報が入る。リーダーのメフメットは直ちに軍用ヘリを飛ばし、緊急出動。テロ集団との激しい攻防戦の末、民間人を無事に救出。事態は収束したかに思われたが、さらなる任務が本部より下る。アファン率いる過激派組織が脅威的破壊力を持つ2発の“ミサイル弾頭”を入手し、トルコの国境から持ち込もうとしていた。事件の背後に潜むのは組織と行動を共にするテロリストのオマール。かつては中東の工科大学に合格し、犯罪歴すらない彼の身に果たして何が起きたのか。そして、メフメット達の前に立ちはだかるのは、情け容赦なく民間人を射殺する過激派組織の女ボス・カデム。ミサイル弾頭の脅威が刻一刻と迫る中、最強特殊部隊と武装テロ集団の熾烈な戦いの火蓋が切られた。
紀元前、ユダ王国の王により秘密の場所に埋められた聖櫃≪アーク≫。その在り処を示す地図は二つに裂かれ、別々の手に委ねられた・・・。時は2005年、幼い頃に両親を火事で失い叔父のロクマンに育てられた元・諜報員のイルハンは、レストランでのいざこざに巻き込まれ連行された警察署で、かつての恋人で同じく諜報員のジェムレと偶然再会する。直後、この国の裏社会を暗躍する謎の秘密結社“テンプル騎士団”を警戒するよう首相府からの命を受けるジェムレ。同じ頃、イルハンのもとに一本の電話が・・・「ロクマンに伝言を。フセインの命が危ない」。フセインとは幼少のイルハンの前から突然姿を消した実の兄で、ロクマンは彼の消息を知っていた。彼こそ、征服王メフメト2世から500年前に託されたアークの地図の一方を守る任を継承した“献身者”。しかも、その地図を狙うのはジェムレが追う“テンプル騎士団”であり、すでに100人から成る暗殺チームが兄に仕向けられていた。兄を救うべく急行するイルハン。しかし、すでに彼は瀕死の重傷を負い、息も絶え絶えに地図の入った首飾りを弟に託すのだった。十数年振りの再会も束の間、更なる追手が彼らに迫り・・・。
酒、女、金!?イスタンブールのスラム街を逞しく生きるネコの破天荒ストーリー!!イスタンブールのスラム街を縄張りとする無類の女好きのネコ・シェロ。そして、いつもつるんでいるカモメのリフキ、ネズミのリザ、同じネコのブラッキー。お腹が減れば酒や食料を盗み、女が欲しければナンパするギャングのような日々を送っていた。ある日、相棒のブラッキーと近隣のメスネコをナンパしに行くが、不慮の事故でそのメスネコを死なせてしまい、激怒したそのメスネコの飼い主のアニメーターと乱闘になり、その飼い主もシェロの手にかかり絶命するが、巻き込まれたブラッキーも銃で打たれ死んでしまう。戻った矢先、自分の息子を名乗るターコという子ネコが現れたり、飼い主から家を追いだされたりと散々な結果に。だが、シェロの不幸はまだまだ続く。死んだ筈のアニメーターがゾンビのように蘇りシェロの命を狙いつけ回し、極上のメスネコ、ミスキャットを手に入れる為に仲間たちと銀行強盗を企てるが・・・。酒、女、金を手に入れるためシェロの暴走は止まらない。果たして、平穏な日々は戻ってくるのか!?
キケロは、1939年から、トルコをドイツ側に味方させまいとするアンカラ駐在英国大使の従僕として働き、その美声に惚れ込んだオペラ好きの大使の信任を得る。1943年、キケロは連合国側の極秘文書を撮影し、それをドイツ大使館に提供するスパイ行為を始める。そんな中、キケロはドイツ大使館の美しいシングルマザーの秘書と恋に落ちひと時の安寧を得るのだが、情報の漏洩が明かになり二人と秘書の息子は英独両大使館から狙われる身に。一方キケロの情報を完全に信用しなかったドイツは手痛い敗北を喫するが、果たしてそれは事実なのか。そもそもキケロはドイツのスパイだったのか、それとも金だけのためにやったか、それとも・・・?
イラン・イスラム革命時、ある男の企みによって不当に逮捕された詩人のサヘル。30年後に釈放され、生き別れとなった最愛の妻ミナの行方を捜し始めるが、政府の嘘によって彼はすでに「死んだ」ことにされていた。一方、夫の死を信じ込まされ、悲嘆にくれるミナには、ある男の影がまとわりつく。その人物こそがサヘルを監獄送りにし、ミナとの間を引き裂いた男アクバルだった…。
シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、トロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説を出版しようと奔走するが、誰にも相手にされない。シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きな父とシナンは相容れない。気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。
イスタンブールで休暇を過ごし始めた教師の男は、陽気だがどこか謎めいた若い女と出会う。女との邂逅を重ねるうち、男は彼女の不可解さにみずからの妄執をかき立てられ……。
トルコ/イラク国境にある山頂地帯の警備に就くトルコ人兵士一団が、トルコ軍と少数民族クルド人の武装組織「クルド労働者党」(PKK)の間の紛争が激しさを増す中で、死も覚悟しなければならない状況に陥る。