世界をガランスに塗りつぶせ!大正時代の画家・村山槐多の「尿する裸僧」という絵画に魅入られた法月薊(のりづき・あざみ)が、街頭で道行く人々に「村山槐多を知っていますか?」とインタビューしていると、「私がカイタだ」と答える謎の男に出会う。その男、槌宮朔(つちみや・さく)は、特殊な音域を聴き取る力があり、ある日、過去から村山槐多が語り掛ける声を聴き、度重なる槐多の声に神経を侵食された彼は、自らが槐多だと思いこむようになっていたのだった。朔が加工する音は、朔と同様に特殊な能力を持つ者にしか聴きとれないものだが、それぞれ予知能力、透視能力、念写能力、念動力を有する若者4人のパフォーマンス集団がそれに感応。彼らは、その能力ゆえに家族や世間から異分子扱いされ、ある研究施設で”普通”に近づくよう実験台にされていたが、施設を脱走して、街頭でパフォーマンスを繰り広げていた。研究所の職員である亜納芯(あのう・しん)は、彼らの一部始終を観察していた。朔がノイズを発信する改造車を作った廃車工場の男・式部鋭(しきぶ・さとし)は、自分を実験材料にした父親を殺そうとした朔の怒りを閉じ込めるために朔のデスマスクを作っていた。薊は、それは何故か村山槐多に似ていたと知り…
魔都 TOKYO。眼球を抉り取られた死体が発見された。淫靡で凄惨な、狩りの季節が始まる―。“生き別れた眼球”を探すため、カメラ片手に魔都TOKYOを彷徨う麻耶。浮遊するがごとく眼球を求め続ける麻耶の姿を記録する脳外科医と、麻耶の眼球を狙う黒ずくめの怪しい眼球コレクター。三人が一つの線として結ばれた時、血の惨劇が幕を開ける…。愛液と鮮血をまき散らしながら迷いもがく麻耶が、己の網膜に焼き付けたものとは一体何だったのか!?
男と女の二つの性器を持って生まれた少年。やがて彼は男性器を失い、女性へと変わっていく……。『樹の上の草魚』は、この不思議な運命を背負って生まれてきた少年と、彼に魅かれていく青年の、可笑しくも奇妙で、そして静かな愛の物語である。男と女の二つの性器を持つ少年・比呂司と、性的不能の青年・亘。静かに友情をはぐくむ二人だったが、やがて比呂司の男性器は離脱し、美しい女へと生まれ変わっていく。男の心、女の心の間で、戸惑い、拒絶しながらも、比呂司を受け入れていく亘。二人の友情がゆっくりと〈純愛〉に移り変わってゆく様が、静かな音楽、緑の光溢れる映像で綴られ、見るものを優しく包みこんでいく。