二本目にして最後の長編監督作。題名はランボーの同名の詩から採られている。ペサックで心優しい祖母と二人暮らしをしていた13歳の少年ダニエルが、やがて母が継父と住むナルボンヌに移住し、経済事情から学業を諦めて二輪車販売・修理店で見習いとなる物語には、ユスターシュの少年時代の記憶が多分に投影された。作家によれば、「自分の映画はどれも最初から社会ののけ者の中に身を置く」一方、本作だけは「ある子どもの、普通の生活から脱落者の境遇への移行」を描いている。主題の一つは、聖体拝領の日に初めて異性を意識した経験に始まる、ダニエルの性的な成長だ。半ば様式的な演出が施されたこの寡黙な映画は、繊細なカラー撮影と相まってユスターシュ作品中例外的な輝きを放ち続けている。
舞台はスイスの山中に建つ古いホテル。ここの持ち主だった祖父母に育てられたヴァランタンが、ホテルが取り壊されると聞いて記憶をたよりにやってくる。今は無人と化したホテルの中を歩きながら、彼は少年時代の懐かしい記憶の数々を思う。あこがれの“世界一の美女”や女性歌手とピアノ弾き、魔術師、思い出話がいつも面白かった祖母。少年ヴァランタンにとって大人たちの世界は素晴らしく魅力的なものだった。過去と現在が交錯するホテルで、シュミットがつむぎ出す夢幻的な舞台がいま始まる。