1970年――21才のリンダ・ボアマンは、フロリダの小さな町で、厳格なカトリック教徒の両親と暮らしていた。ある夜、リンダは女友達と遊びに行った帰りに、地元でバーの経営をしているチャック・トレイナーと知り合う。厳しい両親との生活にうんざりしていたリンダは、チャックの優しい言葉に惹かれ、彼とつきあい、すぐに結婚する。性的にうぶだったリンダに対して、チャックは、セックスの快楽を一から教え込んでいった。その半年後――チャックのダークで陰湿な一面が、しだいに明らかになってきた。妻のリンダをポルノ映画へ出演させるという、とんでもないアイディアを思いつく。たった7日間で撮影されたリンダの主演映画『ディープ・スロート』(タイトルはリンダがチャックから伝授された「秘技」を指して付けられた)は、1972年に全米公開され、記録的な大ヒット作となった。「リンダ・ラヴレース」というポルノ女優としての芸名を授かった彼女は、一躍スーパースターに――パーティ会場でも「プレイボーイ」編集長のヒュー・ヘフナーやサミー・デイヴィス・Jr.といった有名人から賞賛されるほどの人気者となり、70年代の解放的な「セックス革命のシンボル」として祭り上げられていく。
デビュー当時から絶頂期のライヴ・パフォーマンスやビデオクリップ映像と共にドリー・パートン、エミルー・ハリス、ボニー・レイット、ジャクソン・ブラウン等友人・共演者らが出演する本作は全米公開まもなく圧倒的な好評を博し、2021年第63回グラミー賞最優秀音楽映画賞を受賞。愛する音楽を共有したい、という情熱が全ての曲に満ち溢れ世代を超えたファンに愛され続ける稀代のヴォーカリスト=リンダ・ロンシュタットと彼女の歌声を祝福する作品である。製作は前作「グレン・キャンベル 音楽の奇跡/アルツハイマーと僕」(2014)でもグラミー賞3部門を獲得したジェームズ・キーチ、監督は「セルロイド・クローゼット」(95)「ラヴレース」(12)のロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン。