羊から産まれたのは、羊ではない“何か”――山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。子供を亡くしていた二人は、“アダ”と名付けその存在を育てることにする。奇跡がもたらした“アダ”との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく―。
80年代、香港へ密入国した若者、陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、黒社会の掟に逆らったことで組織に追われ、運命に導かれるように九龍城砦へ逃げ込む。そこで住民たちに受け入れられ、絆を深めながら仲間と出会い、友情を育んでいく。やがて、九龍城砦を巻き込んだ争いが激化する中、陳洛軍たちはそれぞれの信念を胸に、命を懸けた最後の戦いに挑む――。
父から受け継いだ仕立て屋で、極上のカフタンを制作する職人のハリム。昔ながらの手仕事にこだわる夫を支えるのは接客担当の妻ミナだ。25年間連れ添った2人に子どもはいなかった。積み上がる注文をさばくために、2人はユーセフと名乗る男を雇う。余命わずかなミナは、芸術家肌の夫を1人残すことが気がかりだったが、筋がよく、ハリムの美意識に共鳴するユーセフの登場に嫉妬心を抱く。湧き出る感情をなだめるように、ミナは夫に甘えるようになった。ミナ、ハリム、そしてユーセフ。3人の苦悩が語られるとき、真実の愛が芽生え、運命の糸で結ばれる。ありのままの自分を許し、愛するストーリーの舞台となったのは、モロッコの首都ラバトと川1本隔てた古都サレ。コーランが響く旧市街には、新鮮なタンジェリンが並ぶ市場や大衆浴場、男たちがミントティーを楽しむカフェがあり、通路の上には大量の洗濯物がたなびくなど、素顔のモロッコがスケッチされる。
2010年夏、ハリウッドの売れっ子脚本家ギルは、婚約者と憧れの街パリにやって来た。それなのにどこか満たされない彼は、本格的な作家に転身し、ボヘミアンな人生を夢見ている。そんなギルが深夜0時を告げる鐘の音に導かれ、さまよい込んだ先は、活気漲る芸術&文化が花開いた1920年代だった!これは夢か、はたまた幻かと驚くギルの前に、次から次へと高名なる人物を名乗る面々と、官能的な美女アドリアナが現れて……。第84回アカデミー賞 4部門ノミネート、最優秀脚本賞受賞/第69回ゴールデン・グローブ賞 4部門ノミネート、最優秀脚本賞受賞。天才ウディ・アレンが真夜中のパリに魔法をかけた!誰しもをめくるめくおとぎ話の世界へトリップさせる至福のロマンティック・コメディ!
すべてにおいて屈折し、狭量で、尊大な美術教師が取るに足らぬと思っていた土地に、何を見つけ出すのか――トルコ東部、雪深いインジェス村の学校で美術を教えるサメット。教師というだけで、村人たちから尊敬され、お気に入りの女生徒セヴィムにも慕われている。しかし、ある日、、同居している同僚のケナンと共に、セヴィムらに“不適切な接触”を告発される。同じ頃、美しい義足の英語教師ヌライと知り合う。夏、念願叶って転任が決まり、この田舎村から去ろうとするとき、雪で覆われ続け、春の陽を浴びることなく突然に強い陽を浴び、黄色く枯れた草を踏みしめるサメットは、その枯草になにを見つけ出すのだろうか......。プライド高く、ひとりよがりで、屁理屈を並べ、すぐにキレて、周囲を見下す、“まったく愛せない”のに“他人事と思えない”主人公サメット。人と自分を比べ、他者をやりこめようとするサメットの姿は、現代社会のどこにでも見つけることができる。主人公サメットとディズダル演じるヌライが繰り広げる人生論のやり取りは、12分を超える圧巻のシーン。「世界のために何ができる?」の問いに、「正義は絵空事」とうそぶくサメット。しかし、そのあとの展開に誰もが驚くだろう。予測不可能さ、アンビバレントさ......人の心の不可思議がそのまま提示されるとき、映画と現実の境界は失われ、新たな映画体験を味わうのだ。
2006年、国王陛下が退位の意向を発表し、ブータンは民主主義体制へと移行する。総選挙で新しいリーダーを選ぶ必要があるが、ブータンでは選挙を実施したことがない。国民の理解促進を図るため、政府は選挙委員をブータン全土に派遣し、4日後に“模擬選挙”の実施を決定する。周囲を山に囲まれたウラ村。山で瞑想修行中のラマのもとを訪れた僧侶のタシは、模擬選挙の報を聞いたラマから「次の満月までに銃を二丁手に入れてほしい」と頼まれる。戸惑うタシに、ラマは「物事を正さねばならん」と話す。時を同じくして、銃コレクターのロンがブータンに到着。ウラ村に昔の貴重な銃があると知り、アメリカから取引にやってきたのだ。ロンは、運転手と通訳を務めるベンジとともに村へ向かう。一方タシは、村中の家々を尋ね歩き、ペンジョーという村人の家に銃があるという噂を手に入れる。銃を譲ってもらうためペンジョーの家に向かうが、一足先にロンとベンジが訪れていて……。ラマが銃を必要とした理由は?選挙は、村人たちに幸せをもたらすのか―。
元特殊部隊隊員のフンは今はトラックドライバーをしながら娘のアンを育てている。ある日、アンが人身売買組織に誘拐され奇跡的に保護される。しかし、彼女の負ったトラウマは大きくフンは復讐を誓う。一方、組織はフンを抹殺するために次々と刺客を送り込んでくる。警察の公安も巻き込み、壮絶なアクションが展開する。
7歳のノラが小学校に入学した。しかし友だちがひとりもいないノラには校内に居場所がない。やがてノラは同じクラスのふたりの女の子と仲良しになるが、3つ年上の兄アベルがイジメられている現場を目の当たりにし、ショックを受けてしまう。優しい兄が大好きなノラは助けたいと願うが、なぜかアベルは「誰にも言うな」と命じてくる。その後も繰り返されるイジメに、やり場のない寂しさと苦しみを募らせていく。そして唯一の理解者だった担任の先生が学校を去り、友だちにのけ者にされて再びひとりぼっちになったノラは、ある日、校庭で衝撃的な光景を目撃するのだった……。
本作で描かれるのは2020年に起こったパンデミック後のアメリカの現状。M&Aにより巨大食品企業の寡占化が一層進み、個人農家は衰退。結果的に貧富の格差が大きく広がってしまっている実態。映画は、一部の多国籍企業による、効率的ではあるが利益拡大だけを追求する脆弱なフード・システムの問題を提起する。食品企業のCEOは巨額の報酬を得ている一方で、アメリカの労働者の最低賃金は15年間変わらず。農業従事者は移民が多く低賃金で働かされている。インフレを考慮すると、労働者の最低賃金は1960年代よりも低くなっているという。生産者を守る仕組みであるフェアトレードは始まっているが、それに反対する巨大企業も根強く残る。近年の大きな変化が「超加工」食品の急増。添加物、人工甘味料、合成香料などを化学的に調合した超加工食品は、食生活において大きな健康問題を引き起こしている。ニュージャージー州の上院議員コリー・ブッカーによると、ここ10年間でアフリカ系アメリカ人の子供は糖尿病の発症率が2倍になっているという。本作では、解決策を求め、サステナブルな未来を作り出そうと奮闘する農家や肉を使わないベンチャー食品企業、活動家や政治家たちの前向きな姿も描かれる。
南イタリア、ナポリの沖合いに浮かぶ小さな緑の島。貧しい漁師の父親と二人で暮らすマリオ(マッシモ・トロイージ)は、チリから亡命してきた高名な詩人パブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)に、世界中から送られてくる大量の手紙を届ける郵便配達人の仕事を得る。丘の上に佇むネルーダの住まいまで自転車で通うのは大変だったが、マリオは女性からのファンレターが大半の“愛の詩人”に興味を抱いていた。温かみがありながらどこか厳しく、圧倒的な存在感を放ちながらも愛妻と甘い声で「アモール」と呼び合うネルーダに、マリオはたちまち惹きつけられる。ネルーダの詩集を取り寄せたマリオは、ネルーダの詩集を熱心に読みこむようになる。そして、ネルーダに感想を伝え、詩の内容について質問する。ネルーダは隠喩についてマリオに教えながらも、意味を理解することより感じることが大切だと説く。やがてマリオは自分も詩を書きたいと願い、自らの生き方や社会について考えるようになり、ネルーダと対話を重ねていく。ネルーダは、マリオの何ものにも染まらない、まっさらな感性に度々驚かされるのだった。そんな中、港のバーで働くベアトリーチェ(マリア・グラツィア・クチノッタ)に一目で恋したマリオは、ネルーダに助けを頼む。ネルーダはマリオの強引な態度に呆れながらもどこか憎めず、一肌脱ぐことになった。マリオの書いた詩の隠喩のお蔭でベアトリーチェはマリオに興味を持つ。二人の恋は燃え上がり、ネルーダの後押しもあって結婚が決まる。村中の人々がお祝いに集まった結婚式の日、ネルーダのもとにチリでの逮捕命令が取り消されたという報せが届く。ネルーダはチリへと帰国し、失業したマリオはベアトリーチェの店を手伝いながら、ネルーダからの手紙を待ち続けていた。だが、ようやく届いたのは、ネルーダの秘書からの荷物を送ってほしいという事務的な手紙だった。失望を胸にネルーダの家を訪れたマリオは、ネルーダが録音したテープを聴き直すうちに、どんなに多くの素敵なことをネルーダが残していってくれたかに気づく。5年後、島を再訪したネルーダとマチルデ。再会の喜びに胸を躍らせてベアトリーチェの店に立ち寄るが・・・。
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々が作る木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。
その夜、一人の若者が地下鉄のホームから線路に転落する。運転士のレオは、なんとか電車を急停車させ最悪の事態を回避したかに見えた。しかし、若者は銃で撃たれ重症を負っており間もなく息を引き取る。驚くべきことに、彼は疎遠になっていたレオの息子・ユーゴだった。警察は、ユーゴが凶悪な強盗事件に関与していたとして捜査を始めるが、父親であるレオの経歴は謎に包まれていた。
23年前にロシアへ出稼ぎに行ったまま行方がわからなくなっていたザールクが、キルギスの村に帰ってきた。家族や村人たちは記憶と言葉を失った彼の姿に動揺するが、そこにザールクの妻であるウムスナイの姿はなかった。周囲の心配をよそに、ザールクは村にあふれるゴミを黙々と片付ける。そんなザールクに、村の権力者による圧力や、近代化の波にのまれていく故郷の姿が否応なく迫る。
そう遠くない未来に起こりえる太陽系消滅に備え、地球連合政府による1万基に及ぶロケットエンジンを使って、地球を太陽系から離脱させる巨大プロジェクト「移山計画」が始動!人類存亡の危機を目前に、各国の思惑や、内紛、争いが相次ぐ中、自らの危険を顧みず立ち向かった人々がいた。亡き妻への想いを胸に、宇宙へと旅立つ飛行士・リウ(ウー・ジン)。禁断のデジタル技術によって、事故死した娘を蘇らせようとする量子科学研究者・トゥー(アンディ・ラウ)。そして、大きな決断を迫られる連合政府の中国代表・ジョウ(リー・シュエチェン)。多くの犠牲を払いながら、地球と人類の存亡、そして希望を懸けた最終作戦が始まった!
KLの主任記者である32歳のミーラは残忍なレイプ事件を取材しており、物語が展開するにつれ、ウッタル・プラデーシュ州に蔓延する暴力、そしてダリト女性であることの難しさが浮き彫りになる。貧しいダリトの家庭に生まれ、14歳で結婚したミーラは、保守的な文化に逆らい教育を受け、KLの記者になった。当時創刊15年目を迎えた同紙は、デジタルニュースに移行することで読者層を広げる方針を決める。ミーラはこの取り組みを任され、同社を地域の有力なデジタルニュース社に変革するため、読み書きがあまり得意ではない人も含め、専門的な研修を受けた28人の記者からなるチームを率いる。彼女のチームが初めてデジタルデモクラシーを経験する中、汚職、女性に対する暴力、壊れた道路や不十分な公衆衛生などの問題を報じた彼女たちの映像は人気を集め始め、男性が経営する他の大手メディアをざわつかせる。映画では脅迫、危険、希望、そして犠牲に満ちたこのストーリーを、私たちは主人公のミーラと彼女の活発な弟子スニータの視点から見ることになる。
舞台はメキシコ・オアハカ州の小さな村。アニマス・トルハーノ(三船敏郎)は貧しい農夫。働き者の女房(C・ドミンゲス)に45人の子供の世話と畑を任せっきり、自分は酒と博打の日々を送る。年に一度の村祭りを取り仕切るマヨルドーモに選ばれるのがこの男の宿願だが、それには、財力はもちろん人望だって欠かせない。アニマスは金を得ようとするが、神頼みがモットーで、女房の残した銀貨を片手に小博打にうつつを抜かす酒びたりの怠け者には、とうてい運は廻ってこなかった。女房の哀願に耳を貸し、珍しく製酒工場で働くアニマスだったが、工場主の息子が自分の娘に手を付けたのを見て、たちまち鍬を持ち出して大立ち回り。町の留置場に送られる。そこでも出獄する受刑者が磁石を拝んでいたら運が向いてきたというのに騙され、磁石と自分の毛布を交換。今まで拝んでいたマリア像を引き吊り降ろして、磁石を拝むアニマスであった。一方、アニマス一家はけなげに働いて金を稼ぐ。しかしその金も、出所したアニマスが持っていってしまう。たまに金を掴むことがあっても、その金は博打か、娼婦カテリーナに巻き上げられるかであった。遂に悪魔に魂を売ったと宣言して、怪しげな黒魔術の儀式を始めるアニマスだったが、結果は飼っていた鶏を騙し取られただけであった。女房の苦労は絶えない。アニマスの娘がつくった赤子を引き取りにやってきた工場主が、慰謝料を受け取れと言ってきた。一生かかっても拝めない大金である。その金でマヨルドーモになろうとするアニマス。司祭は肩書によってアニマスが成長するかどうか変化を見たいと、彼をマヨルドーモに選ぶ。祭りの日、着飾ったアニマス一家が誇らしく町を歩く。しかし金持ちに孫を売りつけて、マヨルドーモになったと人々は彼を嘲笑するのだった。ショックを受けるアニマス。そしてアニマスの金目当てに再び近づいてきたカテリーナをアニマスの女房が刺してしまう。アニマスはようやく自分の愚かさに気づいて、女房の代わりに警察に自首するのだった。
第二次世界大戦の最中、結婚式をあげたばかりのアントニオは極寒のロシア戦線に送り込まれる。次々と仲間たちが倒れてゆく中、彼を救ったのは地元の娘マーシャだった。時は流れ、帰らぬ夫を待ち続けるアントニオの妻、ジョバンナはモスクワへと旅立つ。遠い異国の地で愛する夫を捜すジョバンナがたどり着いたのは、マーシャと結ばれ家庭まで持っていたアントニオの家だった…。全編に流れる哀愁を帯びたテーマ曲も人気の作品。
1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、赤ちゃんが生まれるまでの夏休みを遠い親戚夫婦のキンセラ家のもとで過ごすことに。寡黙なコットを優しく迎え入れるアイリンに髪を梳かしてもらったり、口下手で不器用ながら妻・アイリンを気遣うショーンと子牛の世話を手伝ったり、2人の温かな愛情をたっぷりと受け、一つひとつの生活を丁寧に過ごしていくうち、はじめは戸惑っていたコットの心境にも変化が訪れる。緑豊かな農場での暮らしに、今まで経験したことのなかった生きる喜びに包まれ、自分の居場所を見出すコット。いつしか本当の家族のようにかけがえのない時間を3人で重ねていく―。
クールでシニカルなミンミと、素直でキュートなロンコ。お互いを支え合う親友の二人は、放課後のショッピングモールでスムージースタンドのアルバイト中も、恋愛やセックスの不安や期待にまつわるおしゃべりを楽しんでいる。男の人と一緒にいても何も感じない自分はみんなと違うのではと悩むロンコは、理想の相手との出会いを求めて果敢にパーティーへと繰り出す。一方、ロンコの付き添いでパーティーにやってきたミンミは、ヨーロッパ選手権の選考が懸かった試合を前に、プレッシャーに押しつぶされそうなフィギュアスケーターのエマと急接近する。恋人同士となり、幸せな日々を過ごすミンミとエマ。ミンミと過ごす居心地の良さと、スランプから逃げたい気持ちから、エマは14年間で初めて練習に遅刻してしまう。離れて暮らす母サンナにエマを紹介しようと、義弟リオネルの誕生日を祝いに向かうミンミだが、約束をすっかり忘れていた母から待ちぼうけを食らい深く傷つく。その頃ロンコは、イケメンで女好きのシピ主催のパーティーで彼とベッドインに成功。しかし「マニュアルに従わされて気持ちが萎えた」と言われてしまう。試合を翌日に控えてもトリプル・ルッツに成功できないエマ。集中していないことをコーチにとがめられ、「もうやめる」と宣言。スケート場を飛び出してしまう。母親の育児放棄により長期的な関係をうまく築くことができないミンミは、エマの愛情から逃げ出したくなり、クラブで出会った男性を口説き始める。そしてロンコは、2週間前にデートに誘われた男の子を食事に誘い、セックスにもちこむが、またしても失敗に終わる。翌朝。バイト先でも携帯でエマの試合映像を眺め、未練たらたらなミンミに本音をぶつけるロンコ。痛いところをつかれて片付けていた食器をぶちまけるミンミは、警備室に呼ばれることに。母親を呼び出した彼女は、娘としての複雑な心境を打ち明ける。そして、エマは笑顔でフリーの演目を踊り出すーー
ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート。1877年のクリスマス・イヴに40歳の誕生日を迎えた彼女は、コルセットをきつく締め、世間のイメージを維持するために奮闘するも、厳格で形式的な公務にますます窮屈さを覚えていく。人生に対する情熱や知識への渇望、若き日々のような刺激を求めて、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねる中、誇張された自身のイメージに反抗し、プライドを取り戻すために思いついたある計画とは――――。
2014年7月。ロシア国境近くにあるウクライナ東部ドネツク州グラボベ村。妊娠中の妻のイルカと夫のトリクは小さな家に住んでいた。突然、夫婦の住む家が爆破され、家の壁に大きな穴が出来てしまう。子供の誕生を心待ちにしていた彼らの穏やかな生活は一変。果てしなく続く「広大な大地」。その中にある「壊れた小さな家」。壁にあいた大きな穴から死の影が見え隠れする中、夫婦は徐々に親ロシア派と反ロシア派の対立に巻き込まれていくのだった。
花き農家の息子のレオと幼馴染のレミ。昼は花畑や田園を走り回り、夜は寄り添って寝そべる。24時間365日ともに時間を過ごしてきた2人は親友以上で兄弟のような関係だった。13歳になる2人は同じ中学校に入学する。入学初日、ぴったりとくっついて座る2人をみた同級生は「付き合ってるの?」と質問を投げかける。「親友だから当然だ」とむきになるレオ。その後もいじられるレオは、レミから距離を置くようになるのだが…。
父親の看病のため先住民マオリ系トゥホエ族が暮らすルアトキに帰郷し、警官業務の傍らスクールバスの運転手を務めるタフィ。人里離れたこの地には活動家タメ・イティが主宰のブートキャンプ“ラマ”が存在した。ウレウェラの森で訓練に励むその目的は、サバイバル技術の習得と部族のアイデンティティ存続。しかし、彼らは首相暗殺を企てるテロ集団として疑われ、ニュージーランド警察により密かに監視されていたのである。ある晩、問題を抱えた一人の青年ラスティが父親と口論の末、ライフルを発砲。その監視映像が引き金となり、捜査当局はギャラガー率いる特殊戦術部隊《STG》を突入させ強制捜査に乗り出す。監視の事実を知ったタフィは集落の盾となりギャラガーと対峙するが、ある出来事をきっかけに緊張感は一気に高まり、思わぬ誤解が予期せぬ悲劇を生むこととなる。
愁いを帯びた瞳とあふれる好奇心を持つ灰色のロバ、EO。心優しきパフォーマー、カサンドラのパートナーとしてサーカス団で生活していたが、ある日、サーカス団から連れ出されてしまう。予期せぬ放浪の旅のさなか、善人にも悪人にも出会い、運を災いに、絶望を思わぬ幸福に変えてしまう運命の歯車に耐えている。しかし、一瞬たりとも無邪気さを失うことはない。
1970年代初頭のスコットランド。キリスト教戒律の厳しいカルヴィン主義が支配する小さな村の教会で、信仰の厚い無垢な女性ベスは、よそ者であるヤンと結婚する。ベスは村から離れて石油採掘の仕事に就いているヤンが早く戻ることを神に願う。しかし、油田で発生した事故でヤンは重症を負い、一命は取り留めたものの全身麻痺となってしまう。ヤンはある日、「もうお前を抱くことはできない。別のセックスの相手を見つけ、その様子を話してくれ。」とベスに切り出す…。
1960年代、アメリカの片田舎。セルマと息子のジーンは、温かい隣人たちに囲まれ、つつましくも幸せな日々を送っていた。そんなセルマには悲しい秘密があった。遺伝性の病のため、彼女は視力を失いつつあり、息子ジーンも手術を受けない限り同じ運命を辿ることになるのだった。ある時、セルマは、無理な労働による疲労と視力の悪化により仕事場でのミスが増え、遂に工場を解雇されてしまう。さらに家に帰ると、ジーンの手術代として貯めていたお金がなくなっており…。
人々を導くため、クジラに乗り現れた勇者伝説を信じるマオリ族が住むニュージーランドの小さな浜辺の村。そこでは、ホエールライダーと呼ばれるクジラ乗りの後継者は代々、族長家系の男とされてきた。しかし族長コロの長男ポロランギが、双子の男女を授かったにも関わらず、出産時の不幸から、妻と後継ぎになるはずの男児を失い、女児のみが残された。勇者と同じ名がつけられたパイケアを育てながらも、頑なにしきたりを重んじるコロは、村の12歳となる少年たちの中から後継者を探そうとするが、一方のパイケアは自分がなんとかして跡継ぎとして認められ、一族の役に立ちたいと願うようになる。
1991年、クリスマス。英国ロイヤルファミリーの人々は、いつものようにエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まったが、例年とは全く違う空気が流れていた。ダイアナ妃とチャールズ皇太子の仲が冷え切り、不倫や離婚の噂が飛び交う中、世界中がプリンセスの動向に注目していたのだ。ダイアナにとって、二人の息子たちと過ごすひと時だけが、本来の自分らしくいられる時間だった。息がつまるような王室のしきたりと、スキャンダルを避けるための厳しい監視体制の中、身も心も追い詰められてゆくダイアナは、幸せな子供時代を過ごした故郷でもあるこの地で、人生を劇的に変える一大決心をする。
南仏モンペリエを見渡すアパルトマン最上階、向かい合う互いの部屋を行き来して暮らす隣人同士のニナとマドレーヌは、実は長年密かに愛し合ってきた恋人同士。マドレーヌは不幸な結婚の末に夫が先立ち、子供たちもいまは独立、家族との思い出の品や美しいインテリアに囲まれながら心地よく静かな引退生活を送っている。2人の望みはアパルトマンを売ったお金で共にローマに移住すること。だが子供たちに真実を伝えられないまま、時間だけが過ぎていく。そして突如マドレーヌに訪れた悲劇により、2人はやがて家族や周囲を巻き込んで、究極の選択を迫られることになる…。
航空会社のCAジャック、広告代理店勤務のピエール、漫画家のミッシェルはパリの瀟洒マンションをシェアし、優雅な独身生活を送っていた。ある日、ジャックが「友人から小包が届くらしい」と言い残して3週間の休暇旅行に出かけてしまう。翌日、ミッシェルがマンションのドアを開けるとなんとそこには生後間もない赤ちゃんが置かれていた。置いていったのはジャックの元恋人シルビア。この子の父親はジャックだという。優雅な独身生活は一変し、男3人による子育て大奮闘生活が始まる…。セザール賞最優秀作品賞、脚本賞、助演男優賞受賞。フランスでは600万人を超える入場者を動員し、世界中でも大きな話題を呼んだ大ヒット作。
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
地球の核が震えるような、不穏な【音】が頭の中で轟く―。とある明け方、その【音】に襲われて以来、ジェシカは不眠症を患うようになる。妹を見舞った病院で知り合った考古学者アグネスを訪ね、人骨の発掘現場を訪れたジェシカは、やがて小さな村に行きつく。川沿いで魚の鱗取りをしているエルナンという男に出会い、彼と記憶について語り合ううちに、ジェシカは今までにない感覚に襲われる。
世間から隔離された高地で暮らす8人の兵士たち。ゲリラ組織の一員である彼らのコードネームは“モノス<猿>”。「組織」の指示のもと、人質である博士と呼ばれるアメリカ人女性(ジュリアンヌ・ニコルソン)の監視と世話を担っている。ある日、「組織」から預かった大切な乳牛を仲間の一人が誤って撃ち殺してしまったことから不穏な空気が彼らの間で漂い始める。ほどなくして「敵」からの激しい襲撃を受けた彼らはジャングル奥地に身を隠すことに。仲間の死、裏切り、人質の逃走・・・。極限の状況下、“モノス”の狂気が暴走し始める。
第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。
2015年10月、ルーマニア・ブカレストのクラブ“コレクティブ”でライブ中に火災が発生。27名の死者と180名の負傷者を出す大惨事となったが、一命を取り留めたはずの入院患者が複数の病院で次々に死亡、最終的には死者数が64名まで膨れ上がってしまう。カメラは事件を不審に思い調査を始めたスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」の編集長を追い始めるが、彼は内部告発者からの情報提供により衝撃の事実に行き着く。その事件の背景には、莫大な利益を手にする製薬会社と、彼らと黒いつながりを持った病院経営者、そして政府関係者との巨大な癒着が隠されていた。真実に近づくたび、増していく命の危険。それでも記者たちは真相を暴こうと進み続ける。一方、報道を目にした市民たちの怒りは頂点に達し、内閣はついに辞職へと追いやられ、正義感あふれる保健省大臣が誕生する。彼は、腐敗にまみれたシステムを変えようと奮闘するが…。
進学校に通う成績優秀な高校3年生のチェン・ニェン。全国統一大学入試を控え殺伐とする校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜め卒業までの日々をやり過ごしていた。ある日、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、とっさの判断で彼シャオベイを窮地から救う。辛く孤独な日々を送る優等生の少女と、ストリートに生きるしかなかった不良少年。二人の孤独な魂は、いつしか互いに引き合ってゆくのだが・・・。
『007』、『ミッション・インポッシブル』、『キングスマン』・・・。映画の歴史でスパイを題材にした名作は数多くあれど、しかし、それとはまったく違うアクションとは無縁の、世界でいちばん“やさしい”スパイ映画が誕生した。主人公は83歳の素人男性セルヒオ。しかし、映画ではこのセルヒオが驚くべき活躍を見せる。携帯電話の扱いひとつさえ不慣れなセルヒオが、眼鏡型の隠しカメラを駆使し、暗号を使って潜入捜査を繰り広げる様子に視聴者はハラハラしっぱなし。老人ホームのある入居者が虐待されているとの疑惑があり、そのターゲットの様子を密かに克明に報告することが彼のミッションだ。妻を亡くした悲しみの中にある彼は、傷ついている人をほおっておけない心優しい性格で、調査を行うかたわら、いつしか悩み多き入居者たちの良き相談相手となってしまう・・・。セルヒオは無事にミッションをやり遂げることが出来るのか!?そして彼が導き出したある真実とは?
弁護士として活躍するアン(ジェシカ・ラング)と、父でありハンガリー移民のマイク(アーミン・ミューラー=スタール)の親子はアメリカで40年来、幸せに暮らしていた。だがある日、国連が公表した第二次世界大戦記録の中で、マイクが戦争犯罪者として扱われていることを知る。マイクは人違いを主張し、汚名を晴らすべく娘とともに法廷に立つこととなるのだが―。
1990年代、アルジェリア。ファッションデザインに夢中な大学生のネジュマはナイトクラブで自作のドレスを販売している。夢は、世界中の女性の服を作るデザイナーになること。だが過激派のイスラム主義勢力の台頭によりテロが頻発する首都アルジェでは、ヒジャブ着用を強制するポスターがいたるところに貼られるように。従うことを拒むネジュマはある出来事をきっかけに、命がけでファッションショーを行うことを決意する。
「全米で最も惨めな町」イリノイ州ロックフォードに暮らすキアー、ザック、ビンの3人は貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケートボードにのめり込んでいた。スケート仲間は彼らにとっての唯一の居場所で、もう一つの家族だった。そんな彼らも大人になるにつれ、さまざまな現実に直面し段々と道を違えていく。カメラは、明るく見える彼らの暗い過去、葛藤を抱える彼らの思わぬ一面を露わにしていく――。
ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもある、パリ郊外に位置するモンフェルメイユは、いまや危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展し、事件解決へと奮闘するが、事態は取り返しのつかない方向へと発展し…。
質素で孤独な生活を送る鉄道保線員ツァンコ・ペトロフは、ある日線路で大金を見つけ警察に届ける。運輸省の広報部長ユリアは客車問題の目くらましに、ツァンコを表彰し英雄と持ち上げる。だが実際は皆ツァンコをぞんざいに扱い、ユリアはツァンコの大事な腕時計を失くしてしまう。静かな憤りを胸に、ツァンコは腕時計と尊厳をかけた戦いに挑む。
ジョージアの国立舞踊団で、幼少期からダンスパートナーのマリとトレーニングを積んできたメラブ。日中のハードな練習の後はレストランでのアルバイトで家計を一手に引き受け、休む暇もない。ある日、カリスマ的な魅力のある青年イラクリが入団し、同時にメイン団員の欠員補充のためのオーディションの開催が知らされる。イラクリの持つダンスの才能に驚き芽生えたライバル心が、2人だけの早朝特訓を経て、やがて抗えない欲望へと変化していく…。
アイスランドの田舎町に住むハットラは、セミプ口合唱団の講師。しかし、彼女は周囲に知られざる、もうーつの顔を持っていた。謎の環境活動家”山女”、として、密かにアルミニウム工場に対して、孤独な闘いを繰り広げていたのだ。そんなある日、彼女の元に予期せぬ知らせが届く。長年の願いだった養子を迎える申請がついに受け入れられたのだ。母親になるという夢の実現のため、ハットラはアルミニウム工場との決着をつけるべく、最終決戦の準備に取り掛かるのだが…。
レバノンの首都ベイルート。その一角で住宅の補修作業を行っていたパレスチナ人の現場監督ヤーセルと、キリスト教徒のレバノン人男性トニーが、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって諍いを起こす。このときヤーセルがふと漏らした悪態はトニーの猛烈な怒りを買い、ヤーセルもまたトニーのタブーに触れる “ある一言”に尊厳を深く傷つけられ、ふたりの対立は法廷へ持ち込まれる。
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャの夫婦。離婚協議中のふたりにはそれぞれすでに別のパートナーがいて、早く新しい生活に入りたいと苛立ちを募らせていた。12歳になる息子のアレクセイをどちらが引き取るかについて言い争い、罵り合うふたり。耳をふさぎながら両親の口論を聞いていたアレクセイはある朝、学校に出かけたまま行方不明になってしまう。息子は無事に見つかるのだろうか、それとも―。
クリスティアンは権威ある現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えた。彼は新たな企画として「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いたアート作品を展示すると発表する。四角の中は人々に「思いやりの心」を思い出してもらうための聖域であり、社会をより良くする狙いがあった。だが、ある日、携帯と財布を盗まれたことに対して彼がとった行動は、同僚や友人、果ては子供たちをも裏切るものだった…。
6歳のムーニーと母親のヘイリーは定住する家を失い、“世界最大の夢の国”フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルで、その日暮らしの生活を送っている。シングルマザーで職なしのヘイリーは厳しい現実に苦しむも、ムーニーから見た世界はいつもキラキラと輝いていて、モーテルで暮らす子供たちと冒険に満ちた楽しい毎日を過ごしている。しかし、ある出来事がきっかけとなり、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく―
1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく…。
9世紀のアイルランド。バイキングの襲来にそなえ、ケルズ修道院を囲む塀を作る大規模な工事が続く中、バイキングに襲われたスコットランドのアイオナ島から、高名な修道士エイダンが、1冊の「聖なる書」を携え逃れてくる。その本には隠された知恵と力が秘められていた。ケルズの書を完成させるためブレンダンは、インクの原料である、ある植物の実を探しに、危険を冒して不思議な生き物が隠れ棲む魔法の森へ出かける。森でオオカミの妖精アシュリンの助けを得て、ブレンダンは無事に実を持ち帰るが、バイキングの襲来がケルズにも迫っていた。ブレンダンは本の力によって、闇を打ち砕き、光を取り戻すことができるのか?
サスカインド家の次男オーウェンは、自閉症により2歳から言葉を失い、6歳まで誰ともコミュニケーションを取れなくなってしまった。失意に暮れながら過ごす父と母は、ある日、オーウェンが発する意味をなさないモゴモゴとした言葉が、彼が毎日擦り切れるほど観ていたディズニー・アニメーション『リトル・マーメイド』に登場するセリフであることに気づく。意を決した父が、オーウェンが大好きなディズニーキャラクターの“オウムのイアーゴ”になりきって語りかけると、まるで魔法のように、オーウェンが言葉を返した!数年ぶりの息子の言葉にこみ上げる涙をこらえながら、イアーゴとしての会話を続ける父。こうして、父と母、そして兄による、ディズニー・アニメーションを通じた「オーウェンを取り戻す」ための作戦が始まった!
戦時中にドイツ軍にいたことから秘密警察に追われる身となったエンデルは、身を隠すためにこの町へ来たのだった。校長から運動クラブを開くように言われて、途方に暮れるエンデル。体育用具も軍に寄贈されてほとんど残っていない。レニングラードでは有名なフェンシングの選手だったエンデルが一人で剣を振っていると、マルタ(リーサ・コッペル)が「教えてください」と目を輝かせる。エンデルはフェンシング・クラブを開くことにするが・・・。
イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。12歳の少年サムエレ、海へ出る漁師、刺繍に励む老女。この島の人々はどこにでもある毎日を生きている。しかし、この島には、アフリカや中東から命がけで地中海を渡る難民・移民の玄関口というもう一つの顔があった。
アフリカ、マリ共和国のニジェール川沿いのティンブクトゥからほど近いある街で、少女トヤは、父キダン、母のサティマ、牛飼いの孤児イサンと、ささやかながらも互いに慈しみ合う幸せな生活を送っていた。そこにはいつも父の奏でる音楽があった。しかし、街はイスラム過激派のジハーディスト(聖戦戦士)に占拠され、様相を変えてしまう。過激派は厳格なシャリア(イスラム)法と恐怖政治により住民たちを支配してゆく。彼らは、音楽、笑い声、たばこ、そしてサッカーや不要な外出など次々に禁止し、毎日のように悲劇と不条理な懲罰を繰り返していく。それでも人々は隠れて音楽を楽しみ、少年たちはボールを使わずにサッカーの試合をし、静かに抵抗するのだった。そして極彩色のドレスを着た気のふれたひとりの女は、身体を張って不条理な暴力に対抗する。自由という、彼女の中で燃え上がる炎でもって。しかし過激派たちの、住民への圧政はより色濃くなっていく・・・。
8年の歳月をかけた最後のプロジェクト「GENESIS」。サルガドのレンズが見つめるのは、かけがえのない地球の姿。これまでサルガドは常に人間と向き合い、死、破壊、腐敗といった根源的なテーマを扱ってきた。だが、ルワンダ内戦のあまりにも悲惨な光景を前に深く傷つき、心を病んでしまう。故郷に戻ったサルガドを待っていたのは、まるで彼の心を写したかのように荒れ果てた大地だった…。長年連れ添い、いくつものプロジェクトに二人三脚で携わってきた妻レリアは、ある壮大な提案をする。それは、新しいプロジェクトの始まりだった―。 2004年から始められた「GENESIS(ジェネシス)」では今も地球上に残る未開の場所―ガラパゴス、アラスカ、サハラ砂漠、アマゾン熱帯雨林など、生と死が極限に交わる、ありのままの地球の姿がカメラにおさめられる。サルガドは言う、「GENESIS(ジェネシス)」とは地球への“ラブレター”なのだと。誰もが息をのみ、胸打たれる構図に込められたサルガドの想い。それは彼が、幾多の苦しみの果てに見い出した、希望への祈りなのだ。
メキシコのミチョアカン州。小さな町の外科医、ドクター・ホセ・ミレレスは、何年にもわたり地域を苦しめ続けている凶暴な麻薬カルテル“テンプル騎士団”に反抗するために、市民たちと蜂起を決行する。一方、アリゾナ砂漠のコカイン通りとして知られるオルター・バレーでは、アメリカの退役軍人ティム・フォーリーが、メキシコの麻薬が国境を越えるのを阻止するため“アリゾナ国境偵察隊”と呼ばれる小さな自警団を結成していた。二つの組織は徐々に勢力を強めるが、組織の拡大とともに麻薬組織との癒着や賄賂が横行してしまう。正義の元に掲げた旗は徐々に汚れ、善と悪のボーダーラインは不鮮明になっていく…。映画監督のマシュー・ハイネマンはメキシコ麻薬戦争最前線に乗り込み、決死のレポートでメキシコとアメリカの魔の連鎖、そして、肥大化した組織がたどる皮肉な秩序の崩壊を暴いていく。
学歴もコネもなく、仕事にあぶれたルー(ジェイク・ギレンホール)は、ある日事故現場を通りかかり、テレビ局に悲惨な映像を売って稼ぐ<ナイトクローラー>と呼ばれる報道スクープ専門の映像パパラッチの存在を知る。さっそくビデオカメラを手に入れたルーは、警察無線を傍受しながら事件や事故の発生を待ち、猛スピードで車を走らせ、現場に駆け付ける。良心の呵責など1秒たりとも感じない彼の過激な映像は高く売れるが、局の要求はさらにエスカレート。そして、遂にルーは一線を越える──。