「選挙はエモいね~!」と言いながら高松市の商店街を歩く時事芸人のプチ鹿島。同行する相棒はラッパーのダースレイダーだ。風に乗って聞こえてくる演説の声。「あ、デジタルって言った!」思わず足早になる二人。商店街のその先に、どうしても会いたい人がいた……。2020年4月17日金曜日。物語はこの日から始まった。東大中退のラッパー・ダースレイダーと、新聞14紙を毎日読み比べる時事芸人・プチ鹿島が、YouTubeで「ヒルカラナンデス(仮)」をスタートさせた。コロナ禍で1回目の緊急事態宣言が発出され、街から人の姿が消えた時期だった。二人はアベノマスクや10万円給付をめぐるゴタゴタなど、次々に露呈する政治家の不思議な振る舞いについて毎週笑いに包みながら、それでいて本質的な議論を展開していった。そんな時に出会ったのが映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020/大島新監督)だった。小川淳也議員の17年に及ぶ活動を追った映画は、異例のヒットを記録し、小川氏に注目が集まっていた。一方、小川氏と同じ香川1区選出で、地元でシェア6割の四国新聞のオーナー一族である平井卓也氏は、国会でワニの動画を見ていたことが判明。その後、デジタル改革担当大臣に就任すると、二人は平井氏を「ワニ大臣」という愛称で呼ぶようになる。身内びいきを隠さない四国新聞を読むにつけ、「新聞読みのプロ」であるプチ鹿島の魂に火が付き、いつか逆取材をしてみたいと思うようになる。2021年10月の衆院選で、番組のスピンオフ企画として香川1区を取材。平井氏と小川氏に加え、維新の町川順子氏にも体当たり。そして取材のハイライトは、鹿島vs四国新聞。令和の時代にあり得ない「FAXバトル」が勃発した!2022年7月の参院選でも「ヒリヒリする現場」を求めて大阪に乗り込んだ。「維新政治を斬る」という自前のブックレットを手に、大阪で活動する菅直人元首相に密着。菅氏vs維新のバトルを存分に味わいつつ、辻元清美氏(立憲)、辰巳孝太郎氏(共産)、高木かおり氏(維新)、松川るい氏(自民)らの候補者にもアタックしていく。ところが…。7月8日、奈良で安倍元首相が銃撃されたという一報が入った。二人は、自分たちも含め、この日誰が何をどう考えたかを記録として残そう、と決意する。選挙とは、民主主義とは…答えの出ない問いを胸に、二人の旅は続いた。
衆議院議員・小川淳也を追った映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』に描かれていたのは、理想と現実のはざまでもがき、苦悩する野党政治家の姿だった。小川の政治家人生に常に付きまとってきたのは選挙に弱いという現実だ。2003年の初出馬から1勝5敗、比例復活当選を繰り返してきた。その選挙区「香川1区」で小川の前に立ちはだかるのが、自民党の平井卓也議員である。平井氏は3世議員で、地元でシェア6割の四国新聞と日本テレビ系の西日本放送のオーナー一族、地元では誰もが知る「香川のメディア王」だ。一方の小川は、「地盤・看板・カバンなしのパーマ屋(美容室)のせがれ」。これほど対照的な候補者が並び立つ選挙区が他にあるだろうか。前回2017年の総選挙では、“希望の党騒動”が勃発するも、両者の票差は約2000票にまで縮まり(当確ラインは約8万票)、平井氏が辛勝。その後、小川は統計不正を追及する国会質疑で注目を集め、映画が話題になったこともあり、知名度は全国区に広がりつつあった。一方、平井氏は2020年9月に菅義偉政権が誕生すると、内閣の目玉である「デジタル改革担当大臣」に就任。もはや盤石かと思われた平井氏だったが、不適切発言や接待問題など、新聞や週刊誌のスクープの標的となっていく。小川に有利に働くかと思われたが、選挙公示の直前に日本維新の会から町川順子氏が出馬を表明。香川1区の構図が一変する事態に…。勝つか負けるかの熾烈な戦いに、様々な人間模様がむき出しになっていく。小川は町川氏の立候補取り下げに動き、大きな波紋を呼ぶ。一方、平井氏は突如として街頭演説で前作(『なぜ君』)を批判し始めた…。