1970年――21才のリンダ・ボアマンは、フロリダの小さな町で、厳格なカトリック教徒の両親と暮らしていた。ある夜、リンダは女友達と遊びに行った帰りに、地元でバーの経営をしているチャック・トレイナーと知り合う。厳しい両親との生活にうんざりしていたリンダは、チャックの優しい言葉に惹かれ、彼とつきあい、すぐに結婚する。性的にうぶだったリンダに対して、チャックは、セックスの快楽を一から教え込んでいった。その半年後――チャックのダークで陰湿な一面が、しだいに明らかになってきた。妻のリンダをポルノ映画へ出演させるという、とんでもないアイディアを思いつく。たった7日間で撮影されたリンダの主演映画『ディープ・スロート』(タイトルはリンダがチャックから伝授された「秘技」を指して付けられた)は、1972年に全米公開され、記録的な大ヒット作となった。「リンダ・ラヴレース」というポルノ女優としての芸名を授かった彼女は、一躍スーパースターに――パーティ会場でも「プレイボーイ」編集長のヒュー・ヘフナーやサミー・デイヴィス・Jr.といった有名人から賞賛されるほどの人気者となり、70年代の解放的な「セックス革命のシンボル」として祭り上げられていく。
地球上の全ての人間の記憶は記録・検閲され、個人のプライバシーも匿名性も失われた近未来。「秘密」はもはや過去の遺物となり、犯罪さえも消滅していた。しかし、起こるはずのない殺人事件が発生。捜査上で頼りになるのは、一切の「記録がない女」(ANON=匿名)だった。事件は何かの始まりを示唆するかのように、次々と発生し……