岡山県・美作の緑豊かな山々のふもと。古き良き趣を残す町並みに温泉を携え、お茶処でもあるこの地で、浪人の渓哉(杉野遥亮)は無気力な日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也は、日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力していた。かつて野球に捧げた情熱は燃え尽き、勉強にも身が入らずにいたある日、ピアニストの里香(松下奈緒)がコンサートツアーでやって来ることを知った渓哉。里香はかつて兄の淳也(山村隆太)が東京での大学時代に交際していた元恋人だった。コンサート会場の客席で渓哉が見守る中、舞台上で倒れてしまった里香。療養を兼ねてしばらく美作に滞在することになった里香を、渓哉は自宅の空き部屋に招待する。突然現れた昔の恋人を冷たく突き放す淳也に、「あなたには迷惑はかけない」と告げる里香。こうして少し風変わりな共同生活が始まった。清らかに流れる川を吹き抜ける風、燃えるような緑の美しい茶畑。自然の優しさに囲まれて曲作りに励む里香に、ほのかな恋心を募らせる渓哉。しかし里香にはどうしてもこの場所に来なければならない理由があった……。
東都新聞記者・吉岡は、送り主不明の「医療系大学の新設」に関する極秘文書を元に、許認可先の内閣府を洗い始める。ほどなく神崎というキーパーソンに行き当たるが、神崎は投身自殺を遂げてしまう。一方、内閣情報調査室(内調)に勤める杉原は政権を守るための情報操作やマスコミ工作に明け暮れていた。しかし、外務省時代の尊敬する上司・神崎の死を通じて、官邸が強引に進める驚愕の計画を知ることになる。それぞれの全人生を賭けた、二人の選択とは!?
質素倹約令が発令され、庶民の暮らしに暗い影が差し始めた江戸時代後期。鎌倉には離縁を求める女たちが駆込んでくる幕府公認の縁切寺、東慶寺があった。但し、駆け込めばすぐに入れるわけじゃない。門前で意思表示をした後に、まずは御用宿で聞き取り調査が行われるのだ。戯作者に憧れる見習い医者の信次郎は、そんな救いを求める女たちの身柄を預かる御用宿・柏屋に居候することに。知れば知るほど女たちの別れの事情はさまざま。柏屋の主人・源兵衛と共に離婚調停人よろしく、口八丁手八丁、奇抜なアイデアと戦術で男と女のもつれた糸を解き放ち、ワケあり女たちの人生再出発を手助けしていくが、ある日、二人の女が東慶寺に駆け込んできて…。
山吹摩耶が突然、故郷の函館に帰ってきた。東京でどう稼いだのか莫大な財を築いている。高校卒業以来何も変わっていない街で、久々に高校の同級生たちと再会する摩耶。そして彼らの「夢」や「希望」の実現のために、次々に「わたし、出すわ。」と自分のお金を差し出していく。友人たちは戸惑いながらも、ついそのお金を受け取ってしまうのだった。果たして摩耶の資金の出所は? 彼女の目的とは?そして大金を受け取った友人たちの夢の行く末は・・・?「わたし出すわ」のその先に、それぞれの未来が見えてくる。
「何事もつつみ隠さず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合う。それが私たち家族の決まり」高度経済成長期に造られたニュータウンも今や「ダンチ」と呼ばれる集合住宅にすぎなくなっていた。京橋家の人々は“家族間では秘密をつくらない”という自分たちでつくったルールを守ることもできず、それぞれ誰にも言えない秘密を持っていた――。娘のマナは、学校をサボタージュし「ディズカバリーセンター」を呼ばれる巨大ショッピングセンターで時間を過ごし、時には見知らぬ男性とラブホテルに向かう。弟のコウもまた、学校に行っていないようだし、父・貴史は浮気に忙しく、長年の恋人・飯塚にストーカーまがいに付きまとわれたり、新しい恋人ミーナの若さに振り回されている。妻・絵里子もベランダのガーデニングに丹精を込めつつも、内心、母・さと子とのこれまでの関係に悩み、また、自分がかつてひきこもりの少女であった事実をトラウマとして抱え、生きている。ルールを言い出した彼女ですら、「わたしには、家族にたったひとつだけ秘密がある」――。ふとしたきっかけから、ミーナがコウの家庭教師として京橋家に乗り込んできた!“存在するはずのないお互いの秘密が暴露されはじめて・・・・・・・。
出版社・玄武書房に勤める馬締光也(まじめ みつや)は、営業部で変わり者として持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見出され、辞書編集部に異動になる。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」――見出し語は24万語。完成まで15年。編集方針は「今を生きる辞書」。個性派ぞろいの辞書編集部の中で、馬締は辞書編纂(へんさん)の世界に没頭する。そんなある日、出会った運命の女性。しかし言葉のプロでありながら、馬締は彼女に気持ちを伝えるにふさわしい言葉がみつからない。問題が山積みの辞書編集部。果たして「大渡海」は完成するのか?馬締の思いは伝わるのだろうか?
東京から北海道の月浦に移り住み、湖が見渡せる丘の上でパンカフェ「マーニ」を始めた夫婦、りえさんと水縞くん。水縞くんがパンを焼き、りえさんがそれに合うコーヒーを淹れ、料理をつくる。そこには、日々いろんなお客さまがやってくる。北海道から出られない青年トキオ、なんでも聞こえてしまう地獄耳の硝子作家ヨーコ、口をきかない少女未久とパパ、革の大きなトランクを抱えた山高帽の阿部さん、沖縄旅行をすっぽかされた傷心のカオリ、観察好きの羊のゾーヴァ、そして、想い出の地に再びやってきた老人とその妻。それぞれの季節にさまざまな想いを抱いて店を訪れた彼らが見つけた、心の中の“しあわせ”とは?そして彼らを見守るりえさんと水縞くんに訪れることとは?
猫好きのイラストレーター・ハルが出会う風変わりで愛おしい人々、そして、すれ違う猫たちとのゆるやかな毎日。猫好きに絶大な人気を誇るエッセイをベースに、ユーモラスでちょっぴり切ない傑作が誕生!人も猫も みんないつかはいなくなってしまうから---古本屋でアルバイトをしているハルは、イラストレーターの卵。バイトが終ればお寺の境内に駆けつけて、集まってくる猫たちを眺めるのが日課のハルは、時間の許すかぎり猫をそっと追いかける“猫ストーカー”なのです。恋愛話ばかり報告してくる同僚の真由子、寡黙なご主人とちょっと口うるさい奥さん、それから子供のいないご主人夫婦に飼われた猫のチビトムがバイト先のいつもの顔ぶれ。そののどかな毎日に、思わぬ波風が立ってしまいます。古本屋のご主人がかつての恋人に贈った詩集が、売り物としてお店に戻ってきて、奥さんが機嫌を損ねたのです。ご主人に話しかけられても、返事もせずにチビトムをかまい続ける奥さん・・・チビトムもちょっぴり迷惑そうです。そんなある日、チビトムは姿を消してしまいます。拠り所だったチビトムを失って取り乱した奥さんは、ご主人に食って掛かります。そして、奥さんもまた姿を消してしまったのです・・・。