恋人との普通の幸せを夢見ていた千恵はある日、乳がんを宣告される。見えない不安に怯える千恵に信吾は優しく寄り添いプロポーズ。2人は晴れて夫婦となった。抗がん剤治療を続けるため子どもをあきらめていた千恵だったが、ある時妊娠していることが分かる。産むか産まないか――産むということはがんの再発リスクが高まるということだった。千恵は周りの支えで産むことを決意し、無事出産。「花のようにみんなに愛されますように」と名付けられた『はな』はすくすくと元気に育つ。しかし、家族3人、幸せな日々は長くは続かず、千恵を再び病魔が襲う。健康の基本は食生活から、と今までの食事を見直す千恵。一度は快方へ向かうが全身転移が判明、千恵は余命がわずかであることを覚悟する。4歳になったはなに千恵は、自分がいなくなってもはなが暮らしていけるようにと、毎日みそ汁を作ることを約束させ、料理を教えはじめる。はな5歳の誕生日、千恵は夢であったクラシックコンサートに出演し、娘、夫、家族や友人への感謝の気持ちをこめて歌う。千恵が天国に召された現在、「ちゃんと作る、ちゃんと食べる」という千恵の想いを胸に、今日もまたはなと信吾はみそ汁ののった食卓でご飯を共にするのだった。
長崎で生まれ育ったサラリーマン・ゆういちは、ちいさな玉ねぎ「ペコロス」のようなハゲ頭を光らせながら、漫画を描いたり、音楽活動をしている。男やめものゆういちは、夫の死を契機に認知症を発症しはじめた母・みつえの面倒を見ていたが、症状が進行した彼女を、断腸の思いで介護施設に預けることになる。過去へと意識がさかのぼることの増えたみつえ。その姿を見守る日々のなかで、ゆういちの胸には、ある思いが去来する―。
背中に悔いを背負った男、安田松太郎。彼は傷ついた天使に出会い、旅に出る。しかし、社会はそれを誘拐と呼んだ。――主人公の安田松太郎は、高校の校長を定年退職した厳格な教育者。しかし、幸せな家庭を築けず、アルコール依存症だった妻を亡くし、一人娘から憎しみをかっている。人生に悔恨を背負ったそんな初老の男が、一人の天使に出会う。松太郎が引越したアパートの隣室に母親と二人で暮らしている5歳の少女。ボール紙で作った擦り切れた羽根をいつも背中につけた地上の天使は、母親に虐待され、誰にも心を開けなくなっていた。不幸な少女の名は、幸。松太郎はある日、幸を救い出し、一緒に旅に出る。行く先は、松太郎の遠い記憶のなかにある心のユートピア。青い空に白い雲がぽっかりと浮かび、大きな鳥が悠然と空を舞う、ある山の頂だった。しかし、幸の母親は娘が誘拐されたと、警察に届け出る。捜査の網の目は次第に彼らを追い詰めていく・・・。