よろこんだ涙 くるしんだ涙 すべて味わいになるー北海道・空知。父が遺した小麦畑と葡萄の樹のそばで、兄のアオはワインをつくり、ひとまわり年の離れた弟のロクは、小麦を育てている。アオは“黒いダイヤ”と呼ばれる葡萄“ピノ・ノワール”の醸造に励んでいるが、なかなか理想のワインはできない。そんなある日、キャンピングカーに乗ったひとりの旅人が、突然ふたりの目の前に現れた。エリカと名乗る不思議な輝きを放つ彼女は、アオとロクの静かな生活に新しい風を吹き込んでいく・・・。
出版社・玄武書房に勤める馬締光也(まじめ みつや)は、営業部で変わり者として持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見出され、辞書編集部に異動になる。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」――見出し語は24万語。完成まで15年。編集方針は「今を生きる辞書」。個性派ぞろいの辞書編集部の中で、馬締は辞書編纂(へんさん)の世界に没頭する。そんなある日、出会った運命の女性。しかし言葉のプロでありながら、馬締は彼女に気持ちを伝えるにふさわしい言葉がみつからない。問題が山積みの辞書編集部。果たして「大渡海」は完成するのか?馬締の思いは伝わるのだろうか?