武士道に傾倒し、「葉隠」を愛読するゴースト・ドックは、伝書鳩を唯一の通信手段としてひっそりと生きていた。しかし、かつての恩人で忠義を尽くしたイタリアン・マフィアと、ある日を境に壮絶な抗争へ突入していく。
コーヒーとタバコを囲みながら繰り広げられる、11のエピソードを綴った珠玉の短編集。個性豊かなジャームッシュ作品の常連俳優やミュージシャン、コメディアンや無名の新人までが登場し、それぞれが思い思いの話を展開していく。
NYで自由気ままに暮らしていたウィリーはある日、叔母の頼みでハンガリーから渡米した従妹のエヴァを預かることに。初めは噛み合わない2人だったが、同じ時間を過ごすうちに徐々に打ち解けていく。ウィリーの親友、エディも加わり3人の取り留めのない日々が始まった。
不良のジャック、ラジオDJのザック、そしてイタリア人のロベルトがニューオリンズの刑務所、同じ房のなかで出会う。ある日、偶然見つけた抜け穴から3人はなんと脱獄に成功。外の世界では行く当てもなく、目的地のない珍道中が繰り広げられていく。
会計士のウィリアム・ブレイクは、仕事を求めアメリカ西部の街、マシーンへと赴く。街では痴話喧嘩に巻き込まれ、殺人の濡れ衣をきせられたブレイクは逃亡の旅へ。道中出会ったネイティヴ・アメリカンのノーボディと共に、次々と襲いかかる敵を打ち負かし、気づけば彼は西部劇さながらのアウトローへと変貌を遂げていた。
ロサンゼルス、NY、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市を舞台に、タクシーの車内で展開される、運転手と客との巡り合いをオムニバス形式で描く。地球という同じ星、同じ夜空のもと、それぞれ違ったストーリーが繰り広げられていく。
ニューヨーク大学在学中に卒業制作として撮影された、ジャームッシュ初の長編映画。主人公の少年、アロイシュス・パーカーは社会に適応できず、あてもなくニューヨークの裏街を彷徨う。途中、さまざまなアウトサイダーたちとの出会いと別れを繰り返し、彼は自己の旅の行先を徐々に見出していく。
ブルースとソウルとロック、そしてエルヴィス・プレスリーを生んだメンフィスの街を舞台に3つの物語が交差するオムニバス形式の作品。それぞれがそれぞれの場所で、同じ夜汽車を眺め、エルヴィスの「ブルー・ムーン」を聞き、翌朝1発の銃声を耳にする、ワンナイト・ムービー。
1940年8月、ベルリン。18歳のステラは、ブロードウェイでジャズシンガーとしてのキャリアを夢見ていた。戦争が激化し、ユダヤ人への圧力が高まる中、両親ともに国外脱出を切望していたが叶わず、ユダヤ人の両親を持つステラにとって、その夢は儚く消えていった―。三年後、ステラは軍事工場で強制労働を強いられていた。工場で始まったユダヤ人の一斉検挙からは、かろうじて逃れることができたのだが…。
ごく普通の暮らしをしている大学教授のポール。平々凡々とした日常を過ごしていたが、ある日、何百万という人々の夢の中に一斉にポールが現れ、一躍有名人に。ポールはメディアの注目を集め取材を受けながら得意げになっていく。夢だった本の出版まで持ちかけられ、天にも昇る気持ちだった。しかし、そんな夢のような日々は突然終わりを告げる。夢の中のポールが様々な悪事を働くようになり、現実世界で大炎上してしまうのだが…。
旧ユーゴスラビアのサラエヴォで家族と暮らす少年ディノ。生活は苦しいのに共産主義を信奉する父親は、酔っぱらって帰ってきては子供たちを集めて政治談議。その様子を見て日々のやりくりに疲れた母親はいつもあきれ顔。でもディノはそんなものには一切興味がなく、夜な夜な離れの小屋にある自室にこもって、うさぎのペロを相手に催眠術の猛特訓。さらには地域の若者を集めてバンドを組むことになり、演奏の練習も始まった。ある日のこと。外国映画に登場するストリッパー、“ドリー・ベル”に心奪われたディノは、町のごろつきソニーから見知らぬ女を匿ってほしいと頼まれる。なんと彼女の名は“ドリー・ベル”!一つ屋根の下で暮らすことになったふたりは、いつしか惹かれ合うようになり…。
2023年カンヌ国際映画祭が唯一認めたロシア映画 ロシア南西部の辺境、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした16歳の娘と寡黙な父親。二人は移動映画館で野外上映をし、ポルノ映画の海賊版DVDを若者に密売しながら、錆びた赤いバンで北に向かって旅をしている。母親の不在が二人の緊張した関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂っている。延々と続く荒涼とした風景と、そこで生きる人々との束の間の出会い。やがて辿り着くのは世界の果てのような荒廃した海辺の町。娘は先の見えない放浪生活から抜け出すためにある行動に出るが…2023年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画として大きな反響を呼んだ本作。ソ連崩壊後から時間が止まったようなロシア辺境の停滞と不穏を背景に、思春期の不安を抱える少女の成長を追ったロードムービーである。東欧の民話をもとにドキュメンタリー出身のロシアの俊英イリヤ・ポヴォロツキーが監督した。この映画が撮影されたのはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する少し前の2021年秋。直接的な描写はないが、映像の至る所に政治的な雲行きの悪さが感じられる。母親も友人もいない。自分を守る家も法もない。生ぬるい共感や哀れみに一切なびくことなく、彼女はただやり場のない感情を沸々と溜め込んでいく。剥き出しのロシアの大地を舞台にした小さくも揺るぎない抵抗の軌跡は、私たちにあっけないほど美しい余韻を残すだろう。
スイスアルプスをのぞむ小さな町で、障がいのある息子をひとり育てる仕立て屋のクローディーヌ。毎週火曜日、彼女は山間のリゾートホテルで一人旅の男性客を選んでは、その場限りのアヴァンチュールを楽しむ、もう一つの顔を持っている。そんな中現れたある男性との出逢いが、彼女の日常を大きく揺さぶることになる。もう恋を追いかけることなど想像もしなかったクローディーヌは、再び女として目覚めようとしていた……。
夏の終わり、姉のフレデリックと恋人のマルクがいる海辺を横目に、アンヌはひとり立ち去る。父親に見送られた姉妹は、母親に厳格な女子校へ送り出される。ある日、姉と恋人の手紙を盗み見したアンヌは、クラスメイトにマルクは自分の恋人だと嘘をついてしまう。
世界遺産のトルコ・カッパドキアに佇むホテル。親から膨大な資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らす元舞台俳優のアイドゥン。しかし、若く美しい妻ニハルとの関係はうまくいかず、一緒に住む妹ネジラともぎくしゃくしている。さらに家を貸していた一家からは、思わぬ恨みを買ってしまう。やがて季節は冬になり、閉ざされた彼らの心は凍てつき、ささくれだっていく。窓の外の風景が枯れていく中、鬱屈した気持ちを抑えきれない彼らの、終わりない会話が始まる。善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは?他人を愛することはできるのか―。互いの気持ちは交わらぬまま、やがてアイドゥンは「別れたい」というニハルを残し、一人でイスタンブールへ旅立つ決意をする。やがて雪は大地を真っ白に覆っていく。彼らに、新しい人生の始まりを告げるように。
吹雪が猛威をふるう中、若い技術者の男が発電所の修理のため標高の高い街へ来る。しかし、この街へ来た目的は他にもあった。
映画が誕生した1895年。当時5歳だったアンリ・フォルタンは、父が無実の罪を着せられ獄中で無念の死を遂げ、その後を追って母も自殺しためノルマンディーの漁村で居酒屋を営む夫婦に育てられ、過酷な少年時代を過ごした。やがて、ボクシングのチャンピオンとなったフォルタンは1931年に引退し、運送業を始めた。第二次世界大戦がはじまり、フォルタンはユダヤ人の弁護士ジマンとその家族の引っ越しを請け負う。だが、密告によって一家はスイスへの逃亡を余儀なくされ、フォルタンはそれも請け負った。フォルタンは一家の娘サロメを修道院の寄宿学校に預け、夫婦を国境近くまで運んだものの、夫婦を待っていたのはなナチスの卑劣な罠だった。フォルタンもナチスに協力する警察に逮捕されるがその後脱獄し、強盗団に参加、さらに終戦間近にはレジスタンスに加わった。ついに終戦を迎え、運命の糸で結ばれた様々な人々の人生が再び動きだそうとしていた…。
1930年代のパリ。少年サム・リオンは母親にサーカスの回転木馬に置き去りにされ、拾われたサーカス団で空中ブランコのスターになった。だが、事故で大怪我を負った彼は、サーカスを去り、事業を起こして清掃会社経営を成功させ、実業家として大成功を収めた。50代となったある日、様々なことに疲れたサムは、ヨットで単独大西洋横断に挑戦するが、大西洋上で行方不明となってしまう。2年後、死んだものと思われたサムを、元会社の従業員だった青年アルがアフリカで見つけるのだが…。
幸せな新婚生活を送っていたソヒの夫チャンスが、ある日突然、自らの命を絶った。ショックのあまり流産し、悲しみのどん底に突き落とされたソヒは、生前のチャンスが購入していた郊外の邸宅を相続することに。ソヒは姉ヘランの反対を押しきって、ヌルボムガーデンと名付けられたその家に移り住むが、引っ越し後まもなく奇怪な出来事が続発。ある夜、家の中ですでにこの世にいないはずのチャンスの姿を目撃したソヒは、心優しかった彼が自殺に追いやられた理由を探り始める。やがて地元の女子高校生ヒョンジュが事情を知っていると確信したソヒは、数ヵ月前に失踪した彼女の行方を追うが、ヌルボムガーデンに取り憑いた邪悪な“何か”に脅かされていくのだった……。
一流ボディガードのブライスは任務中に依頼人を暗殺されてしまったことをきっかけに第一線を退き、金持ちの警護で日銭を稼いでいた。一方、殺し屋のキンケイドは服役中の妻ソニアの釈放を条件に、国際司法裁判所で裁かれる独裁者デュコビッチについて証言することに。しかし裁判所までの護送中にデュコビッチの手先に襲撃され、護送チームのほとんどが殺されてしまう。キンケイドを連れて隠れ家に潜伏した女性捜査官アメリアは内通者の存在を疑い、かつての恋人であるブライスに助けを求めるが……。
唯一の家族だった父が急死し喪失感を抱える美巳は、父が営んでいた商店を代わりに切り盛りしに来た伯母・嘉子との関係もうまくいかず、美大の卒業制作も手がつかずにいた。美巳の親友・希良は前向きな性格だが、そんな自分を持て余してもいる。そして伯母の嘉子もまた、ある秘密を抱えていた。そんな中、美巳の身に不思議な変化が起こり、見えないはずのものが見え、聞こえるはずのない声や音が聞こえるように。さまざまな体験や出会いを通して、自分自身を見つめ直していく美巳だったが……。
双子の姉妹クレール(カミーユ)とジャンヌ(メラニー)は、幼い頃からともにピアノに情熱を注いできた。父親からアスリートのような指導を受け、名門カールスルーエ音楽院に入学する。ピアノのソリストを目指し、2人のキャリアを左右するコンサートのオーディションに向けて練習に励む日々。しかし、彼女たちは自分たちの両手が徐々に不自由になる難病にかかっていることを知る。最悪の事態に直面しながらも、改めてピアノが人生のすべてであり、かけがえのない大切な存在だということに気づく。そして、絶対に叶えたい夢を2人で掴み取るため、家族に支えられながら、自らの運命を変えていくー。
ユウタとコウは幼馴染で大親友。いつもの仲間たちと音楽や悪ふざけに興じる日々を過ごしている。高校卒業間近のある晩、こっそり忍び込んだ学校で2人はとんでもないいたずらを仕掛ける。翌日いたずらを発見した校長は激昂し、学校に四六時中生徒を監視するAIシステムを導入する騒ぎにまで発展。この出来事をきっかけに、コウは、それまで蓄積していた、自身のアイデンティティと社会に対する違和感について深く考えるようになる。その一方で、今までと変わらず仲間と楽しいことだけをしていたいユウタ。2人の関係は次第にぎくしゃくしはじめ...。
名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァクは【意識的な食事/conscious eating】という「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法を生徒たちに説く。親たちが気付き始めた頃には時すでに遅く、生徒たちはその教えにのめり込んでいき、「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに参加することになる。栄養学の教師が導くのは、幸福か、破滅か―
1.『Instant Life』:家族のためにヒットマンになった主人公の自首までの2日間。/2.『701号室』:自殺を決意したサラリーマンの主人公が隣の部屋からの聞こえてくる子どもの泣き声に耳を傾け出す。/3.『Light in the bathroom』:大好きだった彼女と暮らしていた部屋に今は1人で住む主人公が、ある朝に気付いた自分の小さな罪に向き合う。
1970年――21才のリンダ・ボアマンは、フロリダの小さな町で、厳格なカトリック教徒の両親と暮らしていた。ある夜、リンダは女友達と遊びに行った帰りに、地元でバーの経営をしているチャック・トレイナーと知り合う。厳しい両親との生活にうんざりしていたリンダは、チャックの優しい言葉に惹かれ、彼とつきあい、すぐに結婚する。性的にうぶだったリンダに対して、チャックは、セックスの快楽を一から教え込んでいった。その半年後――チャックのダークで陰湿な一面が、しだいに明らかになってきた。妻のリンダをポルノ映画へ出演させるという、とんでもないアイディアを思いつく。たった7日間で撮影されたリンダの主演映画『ディープ・スロート』(タイトルはリンダがチャックから伝授された「秘技」を指して付けられた)は、1972年に全米公開され、記録的な大ヒット作となった。「リンダ・ラヴレース」というポルノ女優としての芸名を授かった彼女は、一躍スーパースターに――パーティ会場でも「プレイボーイ」編集長のヒュー・ヘフナーやサミー・デイヴィス・Jr.といった有名人から賞賛されるほどの人気者となり、70年代の解放的な「セックス革命のシンボル」として祭り上げられていく。
パキスタンで2番目の大都市、古都ラホール。保守的な中流家庭ラナ家の次男ハイダルは、現在失業中だ。家父長制の伝統を重んじる厳格な父からの「早く仕事を見つけて男児をもうけなさい」というプレッシャーを受けている。妻のムムターズはメイクアップアーティストの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていた。ところが、ハイダルとトランスジェンダー女性のビバとの出会いと恋が、夫婦とラナ家の穏やかに見えた日常に波紋を広げていく――。
顧客が預けた鍵でその家に入り、他人の人生を盗み見る趣味を持つ不動産公認仲介士のク・ジョンテ。ソーセージを食べながらビーガンサラダの写真を投稿するSNSインフルエンサーのハン・ソラに興味を持ち、観察し始める。ついにハン・ソラの家に入ることに成功したク・ジョンテはある日、彼女がソファーで死んでいる姿を発見することになる。その後、彼がソラの家に出入りしたことを知る何者かが脅迫を始め…。
友に青春時代を過ごした幼馴染だったが、“ある事件”をきっかけにバラバラの人生を歩んでいった富井と金森。現在は、地元のヤクザ・菅原組の構成員と犯罪組織のメンバーとして一触即発の関係になっていた2人の前に、互いの心の拠り所であり、“ある事件”から記憶障害になっていた幼馴染・紅花が現れる。さらに、彼女が組長の一人息子をめぐる事件に巻き込まれたことにより、3人は組織から追われる身になってしまう……。
ムンバイで大学に通うマニーシュは、ストリート・ダンスに興味を持ち独学で練習を始める。ある日、出場したダンスの大会で注目を浴びた彼は、出場していた他の選手にダンス・スクールに通うことを勧められ、決して豊かな家庭環境ではないながらも、マニーシュに一生懸命教育を施してきた両親から反対される中、ダンス・スクールの門を叩く。そこでバレエを教えるイスラエル人イェフダと出会い、バレエの虜になってしまう。優れた運動能力とたゆまぬ向上心を持つマニーシュに、必死で応えるイェフダ。しかし、バレエダンサーとして活躍するには、マニーシュは年を重ねすぎていた……。
偉大なストップモーション・アニメーターであるスザンヌ・ブレイクの愛娘エラは、母の病により中断された作品を完成させようと奮闘する。しかし、独力では作業が進まず、偶然出会った謎の少女の力を借りながら制作を進めるが、次第に現実と虚構の壁が崩壊し精神的に追い詰められていく...。
7歳の少女・ソルは、父・トナの誕生日パーティーのため祖父の家を訪ねる。病気で療養中の父と久しぶりに会えることを喜ぶソルだったが、身体を休めているからと、なかなか会わせてもらえない。従姉妹たちと無邪気に遊びまわることも、大人たちの話し合いに加わることもできず、いらだちや不安が募るばかり。やがて父との再会を果たしたとき、それまで抱えていた思いがあふれ出し、ソルは“新たな感情”を知ることになる...。
韓国で大きく盛り上がった#スクールMetooを描いた <女子高の怪談>、「#Me Too」から取りこぼされた中年女性の姿を追った<100. 私の体と心は健康になった>、学校やアートの現場で「#Me Too」運動に参加した人たちの“その後”を描く<その後の時間>、「#Me Too」とも言い切れない、「加害」「被害」の区分けが難しいグレーゾーンをテーマにした<グレーセックス>の4つの短編からなるオムニバス。
広東省に住むチアニーと恋人の志遠は、最近結婚と家のことで意見が分かれていた。チアニーは家がないと結婚できないとジーユェンからのプロポーズへの返事を先延ばしにしているが、彼は家を持つことに拘る必要はないと考えていた。ある電話をきっかけに、チアニーは生家の家族のことを知り、実父の葬儀に参列することになった。
貧しい北町に住む売れない漫画家・義男(成田凌)。アパート経営の他に怪しい商売をしているらしい大家の尾弥次(竹中直人)から自称小説家の伊守(森田剛)とともに引っ越しの手伝いに駆り出され、離婚したばかりの福子(中村映里子)と出会う。艶めかしい魅力をたたえた福子に心奪われた義男だが、どうやら福子にはすでに付き合っている人がいるらしい。ほどなく、福子と伊守が義男の家に転がり込んできて、義男は福子への潰えぬ想いを抱えたたま、三人の奇妙な共同生活が始まる……。
80年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町。忘れられない恋人の影を追う、考古学愛好家のアーサー。彼は紀元前に繁栄した古代エトルリア人の墓をなぜか発見できる特殊能力を持っている。墓泥棒の仲間たちと掘り出した埋葬品を売りさばいては日銭を稼ぐ日々。ある日、稀少な価値を持つ美しい女神像を発見したことで、闇のアート市場をも巻き込んだ騒動に発展していく...。
フランス海軍の兵士/フランス人船乗りのオルドは、若い頃に数か月だけ結婚したエステルが、16年ほど経ってルイーズ・サンドーリと名乗る有名な女優になっていることを知る。写真を見ても見分けがつかないほど別人のようになっているルイーズだったが、オルドは久々の再会を果たし、美しくなった元妻と再び身体の関係を持つ。しかし、思い出話を懐かしむこともあれば、相手が全然覚えていないようなこともあり、オルドはルイーズの変化に戸惑う。本当にかつての妻なのか、彼女としばらく過ごし何があったのかを探ろうとするが・・・
二本目にして最後の長編監督作。題名はランボーの同名の詩から採られている。ペサックで心優しい祖母と二人暮らしをしていた13歳の少年ダニエルが、やがて母が継父と住むナルボンヌに移住し、経済事情から学業を諦めて二輪車販売・修理店で見習いとなる物語には、ユスターシュの少年時代の記憶が多分に投影された。作家によれば、「自分の映画はどれも最初から社会ののけ者の中に身を置く」一方、本作だけは「ある子どもの、普通の生活から脱落者の境遇への移行」を描いている。主題の一つは、聖体拝領の日に初めて異性を意識した経験に始まる、ダニエルの性的な成長だ。半ば様式的な演出が施されたこの寡黙な映画は、繊細なカラー撮影と相まってユスターシュ作品中例外的な輝きを放ち続けている。
ユスターシュにとって最初の長編映画である本作は、四時間近い破格の上映時間を通じて、やはり作家の私的経験に基づいた物語を綴っていく。その物語とは、72年のパリを舞台に、五月革命の記憶を引きずる無職の若者アレクサンドルと彼の年上の恋人マリー、前者がカフェで知り合った性に奔放な20代の看護師ヴェロニカの奇妙な三角関係を描いたものだ。ユスターシュは、当時破局を迎えたばかりだったルブラン(ヴェロニカ役を演じている)をはじめ、自身と複数の女性との関係に基づいて脚本を執筆した。完成作はカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを獲得。男女の性的関係が台詞も含めて赤裸々に描かれた本作はスキャンダルをも巻き起こしたが、今や映画史上の傑作の一本として不動の地位を築いている。
『ママと娼婦』『ぼくの小さな恋人たち』と併せて、ユスターシュの自伝的三部作を形成する一本。ゴダール提供による『男性・女性』(66)の未使用フィルムを使って撮られた。主演も『男性・女性』のレオー。舞台となるのは、クリスマス・シーズンの仏南西部ナルボンヌ。貧しい青年ダニエルは、モテるためのダッフルコート欲しさにサンタクロースの扮装をして街角に立ち、写真撮影のモデルを務める仕事を引き受ける。やがて彼は、変装した方がナンパに好都合であることに気づくが……ヴォイスオーヴァーを活用して定職のない若者の冴えない日々を描きつつ、やがて彼の滑稽な日常が悲哀へと、期待が幻滅へと転調する語り口が絶妙。ナルボンヌ生まれの国民的歌手シャルル・トレネに捧げられている。
ユスターシュの妻ジャネット・ドゥロにふりかかった災難(ユスターシュと喧嘩して街へ出たドゥロに、二人組の無骨者がつきまとって彼女を困らせた)に基づいて構想された作品。当時ドゥロが秘書として働いていた、カイエ・デュ・シネマ誌のオフィスにある金庫から盗んだカネを使って撮られたとの伝説がある。主人公はタフガイ気取りで品位を欠く、自堕落な生活を送る若者二人組だ。彼らは街をぶらぶらするうちに知り合った女性を口説こうとするが、なびいてこないので腹いせに彼女の財布を盗む。ヌーヴェル・ヴァーグ映画的な街なかでのゲリラ撮影を活用しながらも、ここでのパリは生きづらい寒々しく退屈な街へと変貌しており、登場人物の「リアルな」描出ともども新世代作家の台頭を印象づける。
市長の万巻が主導する複合型巨大観光施設の建設が進むS県暑海(あつみ)市では、温泉客が忽然と姿を消す連続失踪事件が発生していた。しかも被害者はその後、海でサメに襲われた遺体として発見されるのであった。捜査に乗り出した警察署長、束(つか)と海洋生物学博士の巨勢(こせ)は、太古の昔から蘇った獰猛なサメが暑海各地の温泉を自由に行き来し、人々を襲っているという驚愕の事実を突き止めるのだが・・・
ジャンニは有名シューズブランドの社長で独身生活を謳歌していた。ある日モテたくて成り行き上、足が不自由だと偽るが、車いすユーザーで情熱的なキアラと出会い、強烈に心惹かれる。だが彼女と親しくなるにつれ嘘を重ねるハメに…。
ノルウェーの人里離れた渓谷「オルデダーレン」。厳しくも美しい自然に囲まれた場所に、年老いた父母が生きている。成長し、作家となった娘が二人の姿をカメラに留めようとすると、84歳となった父親はこの国で最も美しい渓谷と呼ばれる場所を案内しながら、彼の人生と最愛の妻、そして何世代も自然と共に生きてきた人々の暮らしについて静かに語りはじめるのだった。
クリスマスの夜、刑事ボブ・ハイタワーの元妻とその夫が惨殺され、愛娘ギャビが忽然と姿を消した。その背後には、悪魔のようなカルト集団「左手の小径」の影が蠢(うごめ)いていた。絶望と怒りに苛まれたボブは、かつてカルトに誘拐され生還を果たした女性、ケース・ハーディンと出会う。深い傷を負った彼女は、ボブの苦悩と覚悟に心を動かされ、再びその悪夢の世界へ戻ることを決意する。
モデルになるため日本に来たフィリピン人のエミリアは、フォトグラファーの未来(ミキ)と出会う。異国のふたりは互いにないものに惹かれ、求め合う。未来はその瞬間を逃さないように写真を撮り続ける。しかしそれはどこか脆く儚く、季節が流れるように突然の別れが訪れる。そして物語は海を越えフィリピンへ―
匂いに敏感なひのき(17)は、亡くなった父が残した全国のミニシアターで観た映画の感想が書かれたノートを見つける。ある映画館だけ場所がわからず、匂いのメモや、感想だけが書かれていた。コーヒー豆の焙煎店を営んでいた父が残したコーヒー豆を配りながら、父の巡った映画館へと旅にでるひのき。薄れていく父の匂いと、場所のわからない映画館を探しながら、ひのきは少し、大人になっていく。
ある日、地上から湖に落ちてきた裸の男は、かつて子どもの頃に住んでいた湖畔の家に向かう。口から鍵を吐き出した彼は家に入り、昔の80年代風ファッションに身を包み町へ。ソープと名乗る彼は宇宙人で、25年以上前に突然地球を離れたことから、別れを告げられなかった親友サムを探しに戻ってきたのだった。サムの行方を探す中、パンケーキ店やボウリング場の店主たち、湖で友達になった少女オリビアなどと知り合い、とある家の犬を連れて帰り飼い始める。偶然、迷惑な生配信ドローンを叩き落し、海水浴客を救ったと有名人になった彼は、「お帰り ソープ」「秘密を知ってる」「あなたは死ぬ」との謎の置手紙をもらう。さらには家賃収入のため、同居人もやってきて…。
年老いた父ジェラードと農場を営む息子のドナン。年頃となった彼は性に興味を持つものの、厳しいしつけを強いる父親の目を盗んでは農場の片隅で、一人慰めることで欲求を発散するしかなかった。しかし、父親が急死したことでドナンの鬱屈した日々は終わりを告げる。葬儀が終わり一息ついたドナンは逸る心を抑えきれず、アダルトサイトからコートニーという娼婦にメッセージを送信。地元にコートニーを呼び出したドナンは、女性に慣れていないことを彼女に見抜かれ、流されるままに一夜を過ごす。新しい生活を始めたドナンだったが、コートニーとの情事が頭の中を支配していく。我慢できなくなったドナンはコートニーに電話をかけるが…。
舞台はスイスの山中に建つ古いホテル。ここの持ち主だった祖父母に育てられたヴァランタンが、ホテルが取り壊されると聞いて記憶をたよりにやってくる。今は無人と化したホテルの中を歩きながら、彼は少年時代の懐かしい記憶の数々を思う。あこがれの“世界一の美女”や女性歌手とピアノ弾き、魔術師、思い出話がいつも面白かった祖母。少年ヴァランタンにとって大人たちの世界は素晴らしく魅力的なものだった。過去と現在が交錯するホテルで、シュミットがつむぎ出す夢幻的な舞台がいま始まる。
17世紀のスイス、グリソン州独立の最大の英雄であるイェナチュは、宿敵ポンペウスを殺し、権力を手中に入れた。しかし、数年後には“謎の人物”によってイェナチュもまた殺された──。現代の記者、クリストフはイェナチュの墓の発掘を指揮した人類学者トブラーとのインタビューの仕事を引き受けた。トブラーは一風変わった人物で、イェナチュに取り憑かれている。やがて、ポンペウスの暗殺のあった城に、末裔の老嬢プランタを訪ねた帰路、クリストフは不思議なことにイェナチュに出会う。既視体験(ルビ:デ ジャ ヴュ)に悩まされるクリストフは謎を究明するべくもう一度城に向かうも、何とそこでポンペウス暗殺の現場を目撃。そして、ポンペウスの美しい娘ルクレツィアの姿を発見し…。
ヴィクトリアは刑事事件専門の30代のバツイチ弁護士で、二人の娘の子育てに奮闘しているシングルマザー。家の中は猥雑で、ベビーシッターが居着かない。彼女は洞察力があり皮肉屋だが現在、感情的に崩壊寸前の状態。精神分析のセラピーを受けたり、占い師に運勢を見てもらっている。ある日友人の結婚式で、ヴィクトリアは古い友人のヴァンサンと以前担当した薬物事件の依頼人サムに出会う。その翌日、ヴァンサンが恋人の殺害未遂容疑で逮捕される。無実を証明できるのは被害者の飼い犬ただ一匹。ヴァンサンに頼まれて仕方なく弁護を引き受けたヴィクトリアだったが、その一方で、元夫のSNS上での迷惑行為に対応したり、なぜかサムを住込みのベビーシッター兼助手として雇うことになったり、彼女の人生に数々の波乱が巻き起こる…!
十日後に結婚式を控えた直子は、故郷の秋田に帰省した昔の恋人・賢治と久しぶりの再会を果たす。新しい生活のため片づけていた荷物の中から直子が取り出した1冊のアルバム。そこには一糸纏わぬふたりの姿が、モノクロームの写真に映し出されていた。蘇ってくるのは、ただ欲望のままに生きていた青春の日々。「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」直子の婚約者が戻るまでの五日間。身体に刻まれた快楽の記憶と葛藤の果てに、ふたりが辿り着いた先は―。
赤い旅団のメンバーであるアドリアーナ・ファランダ(ダニエーラ・マッラ)は、プロレタリア革命は成功すると強く信じ、愛する娘と離れ、運動に身を投じている。1977年に起きた大学の経済学部長襲撃事件にも実行犯として関与し、誘拐前のモーロを尾行するなど積極的に活動するも、モーロ誘拐の肝となる活動には参加させてもらえないことに不安も覚えていた。一方で赤い旅団は、誘拐に成功したことで入団を希望する人間が増え、活動は順調にいっているかのように見えた。しかし、メンバー間で、モーロの処遇をどうするかで意見が激しく紛糾していき、アドリアーナも追い込まれていく。モーロ誘拐の事件現場に急行した、妻エレオノーラ・モーロ(マルゲリータ・ブイ)を待っていたのは、銃弾が多数撃ち込まれた、見るも無残な夫の車と、血を流して倒れている護衛の姿、そしておびただしい数のマスコミだった。家を訪れる議員たちは、彼女にもっともらしく慰めの言葉を掛けていき、形ばかりの抱擁を求めてくる。子供たちと共に家に籠り続けていたある日、モーロからの手紙が届く。しかし、ザッカニーニをはじめ、政府は赤い旅団との交渉に応じず、エレオノーラは憤慨する。4月30日、赤い旅団から電話がかかり、すぐさま大統領に連絡をとるが、またも真剣に取り合ってもらえず、失望し涙するエレオノーラ。そして、あるシスターからモーロを見たという証言を聞き、藁にも縋る思いで現場に向かうのだが…。5月8日、目隠しをされた神父が、赤い旅団のアジトとなっている暗いビルの中へと入っていく。さらに隠し部屋に入っていくと、そこにはアルド・モーロの姿があった。約55日ぶりに赤い旅団以外の人間と会ったモーロは、「ここで初めて人の顔を見ます」と神父に語りかけ、強く手を握り、告解を始めるのだった。そして翌5月9日、モーロは目隠しをされ車のトランクに乗せられる。コッシーガのもとには、カエターニ通りで不審な車両が発見された、と緊急無線が入る。
1978年、イタリア。戦後長らく政権を握っているキリスト教民主党の党首アルド・モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)は、共産党との連立政権を実現させるべく奔走していた。これは冷戦下で西側と共産主義が手を取ることを意味していたために、国内外問わず、激しい反発を受ける。無論、党内のモーロと対立する右派系の派閥からの批判も非常に強く、モーロと旧知の仲であるバチカンの教皇パウロ6世(トニ・セルヴィッロ)にも苦言を呈される。それでもモーロは交渉を続け、連立政権の話はまとまった。そんな最中の3月16日、アンドレオッティ内閣(ファブリツィオ・コントリ)の信任投票のため、議事堂に車で向かうモーロは、道中で、極左テロ組織「赤い旅団」に襲撃され、そのまま誘拐されてしまうのだった。モーロ襲撃・誘拐が判明してすぐに、議会では緊急会議が開かれる。指揮を執るのは、内務大臣フランチェスコ・コッシーガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)。彼はモーロを父と慕い、モーロ救出に全力を注ぐことを決意、辞表まで準備する。ほどなくして、赤い旅団からモーロの写真とともに犯行声明が届く。すぐさま、ローマに巨大な包囲網が張られ、徹底捜索が敢行。コッシーガの号令と共に、省内に大規模な通話傍受センターが開設され、日夜、イタリア中の通話が監視されることに。しかし大きな手掛かりは掴めず、コッシーガも精神的に参り、疲弊していく。そして誘拐から14日目の3月29日、旅団に囚われているモーロから手紙が届くのだった。それは事実上の裏取引を持ち掛ける内容で……。バチカンの教皇パウロ6世も、モーロ誘拐に衝撃を受け、救出の策を練っていた。信者に向かって、アルド・モーロのために祈ろうと強く呼びかけ、モーロ解放のために身代金として200億リラを用意する。「アルドは大事な友である」と、司祭を通してアンドレオッティ首相に掛け合うが、首相から話を聞いた将軍たちは「血が流れる」と口々に大反対。一方で各党の党首たちは、概ね、賛成を表明。政府内の足並みは揃わず、また肝心の身代金を渡そうとしていた相手が、どうやら詐欺師であることが判明する。パウロ6世のモーロ救出構想は振り出しに戻り、教皇は、赤い旅団のメンバーに直接語りかけることにする。
悪ガキ3人組“不死身のワニ団”、アリス、ヘイゼル、ジョディは大の仲良し。ある日、ゲームで遊ぶ代わりとして、ママの大好きなブルーベリーパイを手に入れに行くが、必要な卵を謎の男に横取りされる。奪い返すために男を追いかけた3人は、魔女率いる謎の集団“魔法の剣一味”に遭遇し、怪しい企みに巻き込まれてしまう。森で出会った、魔女の娘ペタルを仲間に、悪い大人に立ち向かう4人…果たしてこどもたちの運命は?
東京、丸子亮平は勤務先の会議室へコーヒーを届けに来た泉谷朝子と出会う。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、2年前に朝子が大阪に住んでいた時、運命的な恋に落ちた恋人・鳥居麦に顔がそっくりだったのだ――。5年後、亮平と朝子は共に暮らし、亮平の会社の同僚・串橋や、朝子とルームシェアをしていたマヤと時々食事を4人で摂るなど、平穏だけど満たされた日々を過ごしていた。ある日、亮平と朝子は出掛けた先で大阪時代の朝子の友人・春代と出会う。7年ぶりの再会。2年前に別れも告げずに麦の行方が分からなくなって以来、大阪で親しかった春代も、麦の遠縁だった岡崎とも疎遠になっていた。その麦が、現在はモデルとなって注目されていることを朝子は知る。亮平との穏やかな生活を過ごしていた朝子に、麦の行方を知ることは小さなショックを与えた。一緒にいるといつも不安で、でも好きにならずにいられなかった麦との時間。ささやかだけれど、いつも温かく包み、安心を与えてくれる亮平との時間。朝子の中で気持ちの整理はついていたはずだった……。
コロナ禍で仕事を失った初老の俳優・木村は、一念発起して自作映画を作り始める。ところが、肝心のシーンで主人公に三ヶ月の重症を負わせてしまう。マネージャーからは、損害賠償を匂わされ、最後の頼みの生活補助金も却下の通知が届く。そこに娘のアサミからは厄介な心配事まで持ちかけられる。途方に暮れる木村は、初めて中学の同窓会に出席してみる…そこで再会したかつての学校のマドンナ・雪乃は、木村の映画に出資すると言い出す。東京に戻った木村はスタッフを集め…そしてアサミにも、一つの決意を持ちかけるのだが…。
ジェーンが40歳の誕生日に、自身の30歳の誕生日を回想する間、アニエス・ヴァルダの伝説の女性への尽きることのないイメージがヴィヴィッドに展開する。その空想は、犯罪映画の妖婦、サイレントシネマの凸凹コンビ、モンローのように男たちのファンタジーの対象である女性、よくあるメロドラマの恋人たち、西部劇のカラミティ・ジェーン、ターザンのジェーン、そしてジャンヌ・ダルクへと、ジェーンのイメージを自由自在に拡張させていく。アニエスはまるで自身が画家でもあるかのように、ジェーンを名画の中に息づかせることも忘れない。一方で綴られるジェーンの日常のスケッチ。そこにはセルジュ・ゲンズブールや娘たちとの時間も織り込まれる。そのどれもが、シャイで大胆で逞しく、危うくて儚くて美しい、ジェーン・バーキンの魅力を余す事なく切り取った、アニエスによる私的な肖像画になっている。
娘(シャルロット・ゲンズブール)が自宅の庭で開いたパーティーで、泥酔した同級生の少年ジュリアン(マチュー・ドゥミ)を介抱したマリー・ジェーン(ジェーン・バーキン)は、あろうことか15歳の少年に不思議な感情を抱く。ジュリアンもまた、40歳のマリー・ジェーンに恋愛感情を持っている。微妙な力関係の中、人目を盗んで密会を重ねる二人。そんなある日、二人がキスを交わしているところを、ルシーに目撃されてしまう。